白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「く、ろ……」

「ロゼリエッタ様、お水を」

 掠れる声は口の中だけで響き、二人の耳には届かなかったようだ。

 いや、もしかしたらシェイドには聞こえていたのかもしれない。けれど彼は何も言わずにロゼリエッタを見つめるだけだ。


 オードリーの差し出すグラスに口をつけ、ロゼリエッタはほんの少し眉を寄せた。


 グラスに注がれた水はとても冷たく、ほのかな苦みが混じっている。その苦みに心当たりがあった。


 子供の頃から熱を出す度に飲んでいる、熱さましの薬草の味だ。病気がちでよく熱を出していたロゼリエッタの為だけに、身体への負担が少しでも減るようにと特別に処方されたものでもある。


 その薬自体はロゼリエッタも持って来ていた。でも持っていることはシェイドには教えてはいない。教える必要がないと思ったからだ。

 それが何故、どうしてここにあるのだろう。ロゼリエッタにマーガス暗殺の嫌疑がかかった状態だとは言え、断りもなしに彼女の持ち物を開くとも思えない。


 もしかしたらダヴィッドが気を利かせて持って来てくれたのだろうか。会った直後だし、その可能性がいちばん高い気がする。


 冷たい水が熱い身体に染み込んで行く。心地良さに突き動かされてほとんど飲み干す頃には、薬が効いて来たのか眠気に襲われだした。

「いか……な……で」

 上手く力の入らない指先でシェイドのシャツの裾を掴み、ロゼリエッタの意識は完全に沈んだ。

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