白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

26. 忘れなくてもいい

 ロゼリエッタが再び目を覚ました時、室内は薄暗かった。

 光が入らないよう、カーテンは閉められたままなのだろう。室内の灯りも全て落とされており、部屋が広いことも相俟って辺りはしんと静まり返っている。

 どれくらい眠っていたかは分からないけれど、張り詰めた空気の様子から夜明け前のような気がした。


 解熱剤のおかげで熱も下がっているのが分かる。

 熱が引いた直後独特の倦怠感があった。でもオードリーが夜中もずっと献身的に世話を焼いてくれていたのだろう。コットンの夜着は汗で濡れることなく、さらりと心地良い。


 ふいに人の寝息らしきものが聞こえた。

 看病疲れから眠ってしまったオードリーだろうか。お礼を言わなくてはと視線を巡らせ、ベッド脇の椅子に座る人物に目を見開く。


 薄闇にぼんやりと浮かぶ、腕を組んだ状態で俯いたシルエットはオードリーのそれではなかった。

 でもどうして、ここに彼が――シェイドがいるのか分からない。


 最後の着替えという大仕事を終えたオードリーと代わって、それから傍にいてくれたのだろうか。ロゼリエッタが見つめていることに全く気がついた様子もなく、よく眠っている。


 そういえば寝顔なんてものを見るのはこれが初めてだ。

 三歳年上のクロードは、自分よりずっと年上だと思っていた。だけど穏やかな寝顔は年齢よりも幼く見える。こんな時なのに、新しく知った一面に新しい恋心を覚えてしまう。

 熱と共に恋心が溶け、どこかに流れて消えてしまうなんてことはなかった。

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