白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「来たばかりですし……退屈ではありません」

 だけど、そんな扱いに全く慣れてはいないのと、恥ずかしさとでシェイドの顔を見られない。

 失礼な態度だと分かっていても、視線を背けたままの返事になった。そのせいか我ながらひどく素っ気ない反応になってしまった気がして、できる範囲で視線を戻して言葉を重ねた。

「鍛錬は毎日なさっているのですか?」

「そうですね。できる限り時間を取るようにしています。いざという時に身体が動かないなんてことがないように」

「――そう、なんですね」

 自分から聞いたくせに、いつだってレミリアの為に行動しているのだと思い知らされて勝手に傷つく。

 分かっていたことだ。

 彼はロゼリエッタの婚約者じゃない。


 泣きたいのはロゼリエッタだ。

 なのに何故かシェイドもつらそうな顔をする。

「僕の世界を眩い光で照らしてくれた大切な人を、僕の手で守りたくて騎士になることを決めました。もっとも――その志も、僕が未熟だったばかりに最後まで達成できそうにありませんが」

 どういう、ことだろう。

 レミリアの護衛騎士ではなくなったのかもしれなくても、マーガスに仕えているのなら意味合いとしてはさほど変わりがないはずだ。

 彼女はマーガスの元に嫁いでしまうから手が届かなくなった。そういうことだとしても、それはシェイドが――クロードが未熟だからではない。王族同士の婚姻である以上、もっと別の理由だ。

「シェイド様……」

 三歳年上で、優しい婚約者だった彼のこんな表情は見たくない。

 話題を変えようと、そういえば助けてくれたお礼を未だに伝えていないことを思い出す。

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