白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
第五章

29. 幕引きはせめて自分から

 玄関から外へ出て、家から持って来ていたお気に入りの白い日傘を差す。

 ここでは開く機会などほとんどないだろうと諦めていたから、こうして差せることは純粋に嬉しかった。

 特注で作ってもらってもらった白詰草モチーフの可憐なレースが、心をよりいっそうと明るく弾ませてくれる。はしたないけれど頭上に差した状態で日傘をくるくると回すほど浮かれてしまって、それを見ていたらしいシェイドの笑い声が横から小さく聞こえた。

「どうせ、子供ですから」

 日傘の下で頬を膨らませながらそっぽを向く。

 表情を見られなくて良かった。なのにシェイドは何を思ったのか、ロゼリエッタの視線の先に回り込んで身を屈めた。


 驚きに目を見開いた顔が、緑色の目の中に映っている。ロゼリエッタは何かを言おうとして、でも何を言えばいいのか分からなくて結局、口を閉ざした。


 にこりと穏やかにシェイドが微笑む。

 せめて仮面をつけていなかったら、どれだけ良かっただろう。

 すぐ欲張りになるロゼリエッタが自己嫌悪で表情を曇らせるより早く、シェイドが笑みを浮かべたまま告げた。

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。この庭の景色を楽しんでいただけそうで光栄です」

 滑らかに磨かれて肌触りの良い白木の柄を両手で握りしめ、ロゼリエッタは小さく頷く。

 綺麗な庭園は楽しみではあるけれど、嬉しいのはシェイドと――クロードと一緒に散策出来るからだ。けれどまだやっぱり言葉を見つけられないでいると、行きましょう、とシェイドが優しく促して歩きはじめた。歩幅はいつもの、ロゼリエッタをエスコートしてくれる時のそれだった。

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