白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

30. 存在の理由

 四阿(あずまや)に戻る頃にはシェイドの言う通り、食事の準備は完了していた。


 白木を丹念に削って作られた丸テーブルには生成り色の綿糸でレースを編んだクロスがかけられ、庭園から摘んだ花たちが中央で鮮やかな彩りを添えている。テーブルとお揃いの椅子も可愛らしく、ダイニングと同じようにささやかでも幸せな時間を過ごせるよう、細やかな気配りがそこにあった。


 二人が席に着くとオードリーがワゴンを押してやって来た。

 野菜や燻製肉を挟んだバケットの乗った平皿、サラダを盛ったガラスのボウル、果物のバスケット、果実水の注がれたグラス……と、一通りの食器をロゼリエッタの目の前で手際良く並べて行く。最後に良く磨かれたナイフとフォークを置いて一礼し、今度は空になったワゴンを押して場を後にした。


 そういえばと気がつく。


 この昼食がシェイドと笑顔で食卓を囲む最後の機会になったかもしれないけれど、ロゼリエッタ自身の手で壊してしまった。

(せめて昼食が終わるまで、心に秘めていたら)

 選ばなかった行動の方が良い結果に繋がっていたのではないか。

 未練がましく迷ってしまうのも、仕方のないことなのだろう。


 けれど、ごく小さな当たり前のことさえ共にすることができない。

 ロゼリエッタが上手く振る舞えていたら、この昼食では庭園の感想や、カルヴァネス家の庭もそれは見事に管理されていると伝えたり、楽しく過ごせていただろうか。


 だけどやっぱり知らないふりをしたところで心は痛み続けるに違いない。

 もうすでに完全に二人の時間は別々の方向へ進んでいるのだ。

 改めてその事実を強く実感させられ、受け入れるしかない。

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