白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
(でも私は、人形じゃない)

 だめ。思い直して。今ならまだ知らないふりを出来るの。

 そう泣きながら縋りつくもう一人の自分の幻影を、目を開けることで掻き消して振り返った。


 シェイドの表情は仮面に隠され、その全ては見えない。けれど、ロゼリエッタが気がついたことにシェイドもまた気がついている。表情ではなく彼の纏う空気がそう物語っていた。

「シェイド様にお聞きしたいことがあります。――答えて下さいますか?」

 思ったより声は震えなかった。

 視線を合わせ、シェイドは深く息をつく。

 その仕草や雰囲気の端々からわずかに窺える諦念は、どちらに対するものなのだろう。

 舞台装置の人形であるはずのロゼリエッタが反抗的な態度を示したからなのか。あるいは、隠し通すことへの限界を感じたのか。


 沈黙が二人の間を満たす。

 それは庭園に出た時の心地良さすら感じさせる優しいものなどではなく、張り詰めた痛みを伴ったものだった。


 ロゼリエッタは日傘の柄を強く握りしめた。血の気が失せて白くなったその細い指先を見やり、シェイドが再び息をつく。

「もうすぐ昼食の準備が整います。先に昼食を摂ってからにしましょう。あなたが今にも倒れてしまいそうです」

 場をうやむやにし、はぐらかす為に言っているのではなさそうだ。

 ロゼリエッタは柄を握る指を緩めて頷き、シェイドの後をついて四阿へと引き返した。

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