白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「――本当は」

 不安に駆られ重ねて問いかけようとするとダヴィッドが言葉を紡いだ。

「家に帰してあげたいけれど、全てが終わるまで何が起こるか分からない以上は帰せません。一週間もかからないと思います。だからどうか、レミリア様の私室近くに用意した部屋にいてくれるようにと」

 どうして敬語で話すのか。

 理由はすぐに分かった。


 おそらくはクロードに伝えられた言葉をなぞっているのだ。できるだけ正確に伝えられるよう、返事に時間がかかっていたのだろう。

「分かりました」

 まだ、守ろうとしてくれている。


 とっくに婚約者じゃないのに。

 幼馴染みのクロードでさえないのに。

 傍にいてくれないのに。


 でもだからこそ、ロゼリエッタはクロードを忘れられない。泣きそうになりながらも涙は堪え、かろうじて了承の意を込めた一言だけを発した。


 ロゼリエッタの反応が意外だったらしい。まじまじと見つめられているのが分かる。

 少しの気恥ずかしさを感じはじめた頃、ようやく視線が外された。

「久し振りじゃないってさっき言ったばかりだけど、その少し会わない間にずいぶん変わったね、ロゼ」

「そうでしょうか」

 言われても実感がなくてわずかに首を傾げる。小さく笑うような気配の後、ダヴィッドは言葉を続けた。

「うん。見違えるほど表情が強くなったと思う。ずっと迷っていた何かを決意したってことかな」

「ありがとうございます。本当に強くなれているのなら良いのですけど」

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