白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 フランツにとって、それは非常に危険な賭けだ。

 でもスタンレー公爵を引き込む勝算があった。自分と婚約関係を結んでいながら他の男性と子を成したなど、とても許せるような状況ではないだろう。

「そしてクロードも成人が近づくにつれ、他ならぬ自分たちの婚約にスタンレー公爵が噛んでいることに強い危機感を持った。だから……巻き込まない為に、手放してしまうことを選んだの。ロゼ、無垢なあなたが何よりも彼の大切なものだったから」

「でも、だからって……」

 ロゼリエッタは強くかぶりを振った。

 自分は無垢なんかじゃない。ただクロードに傍にいて欲しくて、レミリアに嫉妬だってするような人間だ。じゃあ無垢じゃないロゼリエッタは、傍にいてはいけないのか。

「何も言わないのは、信用していないことと同じです」

「それは違うわ、ロゼ。クロードは」

「だってマーガス殿下は、王位継承問題の渦中にあられてもレミリア殿下との婚約の解消も保留も選んでない!」

 ロゼリエッタとレミリアは違う。

 クロードとマーガスも違う。


 でも大切な人の手を取りたいと願うのは誰だって同じはずだ。


 感情が溢れて、ひどくみっともない心ごと隠すように両手で顔を覆う。

 涙が止まらなかった。

「ごめんなさい、ロゼ」

 背中に温かくて優しいものが触れる。

 レミリアの手だ。

 ロゼリエッタの涙を止めようと、何度も何度も背中を撫でる。

「私、は、ただクロード様が好きで……っ、お傍に、いたかっ、それだけ、なんです」

 嗚咽の中で、たった一つの叶わない願いを訴えた。

 拭っても拭っても涙はとめどなくこぼれ落ちて来る。前もそうだった。この涙は止められない。クロードとの婚約解消がなかったことにならない限りは。

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