白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

39. 嘘で固められた法廷

 長い廊下を、レミリアの後に付き従って歩く。

 以前、父や兄と共に婚約の解消を申し立てる書類を提出しに来た、(まつりごと)を執り行う為の部屋が立ち並ぶ一角だ。あの時よりさらに奥へ向かっている。

『クロード様の裁判に、私も立ち会わせて下さい』

 ロゼリエッタから伝えた願いはそれだった。

 レミリアは予想だにしていなかったのか探るような目を向け、けれどすぐに了承の意を示した。


 そうして離宮での日々と同様に、レミリアの元でも何も変わらないまま時間は過ぎて行った。

 兄と会えたのはあの時と違うものの、それだけだ。

 クロードにもアイリにも会えなかった。

 元気にしている。

 その伝言だけが支えだった。


 すれ違う人々は文官として勤める貴族がほとんどで、レミリアの姿を見ると一様に頭を下げて道を開けた。

 後ろにいるロゼリエッタに目を向ける者は誰一人としていない。それはやはり、冤罪とはごく一部で囁かれているだけのことのようで安堵を覚えた。


 廊下の突き当たり、大きな両開きの扉の左右に衛兵が立っている。

 扉には合わせ目を中心にした天秤の彫刻が施されていた。衛兵の手で開かれた扉を抜ければ、中は縦長の部屋だった。

 入ってすぐの場所に二人がけの椅子が四脚、等間隔に規則正しく並んでいる。おそらくはここに傍聴人たちが座るのだろう。ただし今回は秘密裏に行われる裁判らしく、誰も座ってはいなかった。

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