白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 目線を前に向ける。

 最奥の壁に描かれたフレスコ画が視界に飛び込んで来た。

 モチーフは天秤を掲げる美しい女神だ。最も有名なエピソードの一節を抜き出したものであり、その足元には公正かつ厳格な裁きを乞う七人の立派な紳士が(ひざまず)いていた。

 奥は床自体が扉側よりも三段高く、豪奢な飾りのついた椅子はこちらも空席だった。立ち合った王が座る席に違いない。近くの壁に扉があるのも見えた。


 部屋の中央に設えられた木製の柵はロゼリエッタの腰の高さくらいで、扉側は囲われていない。発言の為の場らしく、そこには騎士の正装に身を包んだクロードが背中を向けて立っていた。

 やはり"シェイド"ではなく、クロード・グランハイムとして裁判に赴くということらしい。髪の色も見慣れた金色に戻っている。

「クロード、様……」

 呟きが届いたはずもないのに、ふいにクロードが振り返った。今は仮面もつけてはいない。青みがかった緑色の目がほんの一瞬、驚きに見開かれた。

 どうしてロゼリエッタがいるのか。

 せっかく重なった目はすぐに逸らされ、そう問い質すかのようにレミリアに顔を向けた。


 言わなければ、伝わらない。

 だからロゼリエッタは初めて自分の覚悟を伝える為に、ここに来たのだ。

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