白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 毎日が楽しい。

 だけど同じくらい、苦しい。

『お父様、お母様、お兄様。わたくしはどうしたら良いのですか』

 あんなに書くのが楽しかった家族への手紙も、書くのが苦痛になった。

 何度も書いては消して、最後には変わらず元気にやっていますと書くだけ。何かあったと心配させてしまうと分かっていても、どうすることも出来なかった。


 マチルダはただ、生まれて初めて恋をしただけだ。

 何も悪いことはしていない。

 なのに胸を張ることはできずにいた。

 だって相手にも婚約者がいる。


 何より――この国の、第三王子だった。

『お父様、お母様、お兄様。わたくしは今、恋をしています』

 苦悩の果てに打ち明ければ、さしもの公爵も顔色を変えた。父からの手紙は取り返しのつかない事態になる前に諦めさせようと、精一杯の説得の言葉ばかりがそこに並んだ。


 分かっている。

 この恋は誰にも祝福されない恋だ。

 家族なら認めてくれると甘いことを考えていたわけじゃない。

 でも、それでも好きな気持ちはどうしようもなく激しく、愚かなほどのひたむきさを持って燃えさかってしまうのだ。



 たった一度の恋のはずだった。

 けれど神は確かにいて、一度だけだからなどと、いいわけや逃げを許してはくれなかった。浮つく心のまま、その想いがもたらす様々なことも一切考えず目を背け続けていた恋に、地に足をつけて自分を取り巻く状況と真っすぐに向き合うべく大きな責任をマチルダに課した。



『お父様、お母様、お兄様。本当に申し訳ありません』

 マチルダのお腹の中には、アーネストの子供がいる。




To be continued 「32. 許されざる恋路の果てに」

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