白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 仮面の奥の青みがかった緑色の目が初めて揺れる。

 ごく小さな感情のさざめきだ。それに気づく人物は多くはない。だが、残念ながらマーガスはその数少ない人物の一人だった。気遣わしげな視線をシェイドに向ける。


 一通の手紙が、夜会に出席する為に支度をするマーガスに届けられたのは夕刻前のことだ。

 線が細く、若干の丸みを帯びた筆跡は女性が書いた文字と思われる。差出人は書かれてはおらず、女性からの手紙だと印象づける為か封蝋(ふうろう)は桃色だった。


 見るからに疑わしい手紙だ。

 だが、何故か間に入っているはずの検閲を潜り抜け、それは未開封の状態でマーガスに届けられた。夜会に顔を見せるまで、マーガスがこの国を訪れていることは伏せられているにも拘わらず、だ。

 つまりその手紙は、ある程度の内情を知る者の息がかかっていることは間違いない。

「封蝋に押された印璽(いんじ)……それだけで君は、差出人を誰にしたいのか分かっただろう」

「――ええ。そうですね」

 桃色の封蝋に刻まれた図柄を思い出し、クロードは苦々しく息を吐く。

 筆跡は本人に代筆を頼まれたと言い訳がつく。しかし使用された印璽は誤魔化しが一切効かない。


 やや珍しい図柄は職人に特注したものだ。

 白詰草をあしらったそれはクロードが作らせ、ロゼリエッタにプレゼントした。同じデザインの印璽は少なくとも、クロードが知る限りでは存在していない。

「ロゼリエッタ・カルヴァネス嬢が殿下に人知れず手紙を送ったと、その事実だけが必要なのでしょう。おそらくは、僕やレミリア殿下への牽制の為に」

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