白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 手紙には少女めいた些細な憧れが綴られていた。


 諦められない恋心が叶わずとも、せめて金曜日に会いたいと。


 送り主の性格を慮れば、精一杯の勇気を振り絞ったのだと窺える。だがその淡い恋心は抱くのは自由であっても、抱いたのなら自らの中だけに秘めておかなければいけない類いのものだ。婚約者のいる令嬢が、やはり婚約者のいる隣国の王太子に伝えて良い想いではない。


 もちろんクロードは、手紙を認めたとされる少女の想いではないと分かっている。

 自分がいちばんに想われているという自惚れからではない。もし仮に手紙の内容が事実なのだとして、控え目な性格の彼女がこのような軽はずみな行動を取るとは思えないからだ。

「まあ、そう見るのが妥当だろうね。この印璽一つで君の動きが大きく制限されるんだ。向こうとしても手に入れるのに費やした労力を帳消しにできる収穫だろう」

 庇護したいからこちらへ来るように言っても、事情を説明できないのだ。説得力のまるでない要請が拒絶されるのは目に見えている。

 しばらくはロゼリエッタの周囲の状況に目を配りながら後手に回るしかなく、そうするしかできない自分の選択ミスは悔やんでも悔やみきれない。

(――ロゼ)

 そこにいるはずのない、甘いミルクティー色をした長い髪が眼前に広がった。


 淡い幻想を呼び水に、一つの姿が鮮明に脳裏に浮かぶ。

 触れると心地良い髪。

 小さな白い顔。

 若草色の澄んだ大きな瞳。


 ――何かを伝えたそうに噛みしめられる桜色の小さな唇。


 いずれは手を取り合って結ばれる未来を夢見た、婚約者だった少女の姿だ。

 他ならぬ自分が、自分ではない手を取るように勧め、彼女は従った。

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