白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

15. 後ろ向きで前に歩く覚悟

 ロゼリエッタはシーツに(くる)まってじっとしていた。


 ベッドに入ったのはどれくらい前のことだったろう。眠ろうと努力はしている。けれど目を閉じてもすぐに薄闇の世界に戻って来てしまうのだ。


 どれだけ足掻いたって、クロードとの婚約は解消の方向に進んでいる。

 ロゼリエッタもそれを受け止め、そして変わらなければいけない。すぐにクロードへの想いを断ち切れないロゼリエッタでも、ダヴィッドは婚約者として受け入れようとしてくれていた。


 でも。

 だけど。


 瞳に涙が潤んだ。堪え切れず涙をこぼすと嗚咽がとめどなく込み上げて来る。

「クロ……ド様。クロード様……っ」

 縋るように名前を呼んでも誰も応えてくれない。

 クロードの前で泣いたことなどなかったから、こんな時どう慰めてくれていたのか思い出すこともできなかった。


 日が経つほどに気がついてしまう。

 婚約者になってから、婚約者らしいことの思い出が何もない。

 レオニールの友人として訪ねて来てくれていた時。婚約者になってから。どちらもクロードの態度は変わりなかった。ロゼリエッタはいつだって、あくまでも妹のような存在でしかなかったのだ。


 そんなことは分かっている。

 決して、同じ形の愛を返してはもらえない。

 そんなことくらい痛いほど分かっている。


 でも、それでも好きなのは仕方ないではないか。

 もう忘れることを決めた。でも、そうすると決めただけだ。その程度で忘れられるはずなどないことは、それこそいちばん分かっている。

< 91 / 270 >

この作品をシェア

pagetop