白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 それでいい。

 それで良かったはずだ。


 騎士用の正装の胸元に手をやる。

 その手の中には、まだ婚約者になる前の最愛の少女が渡してくれたお守りがあった。ずっと大切に、肌身離さず首にかけているものだ。

 少女そのものに触れる時のように、壊してしまわないようにお守りをそっと握りしめる。


 良いことがあるようにと四葉を探し、押し花にしてくれた。

 今でも彼女の純粋で温かな想いがそこに込められているようで、何度も手の中に包み込んだ。その度に彼女を抱きしめているようで満ち足りた気持ちになった。


 彼女の瞳が、揺れる四葉と同じ色をしている。

 そう気がついた時から、幸運を願ってくれたことに愛おしさが募った。

「クロード、君は」

「その名はもう、捨てた名です」

 何よりも大切な少女の手を自ら離した日から、彼は"クロード・グランハイム"ではなくなったのだ。


 綺麗な世界だけを見せたくて。

 巻き込みたくなくて。


 自らの大部分を占めるものを切り捨てたのに躊躇(ためら)う時間が長すぎた。その行動に何の意味もなくなった。

 クロードの遅すぎる行動を嘲笑うように、たった一人の大切な存在はいともたやすく利用された。彼女自身には何ら関係のない権力争いの道具にされている。本人の知らないうちに、あの可憐な花は汚い大人に踏みにじられてしまった。


 もう後戻りはできない。


 マーガスの言うようにクロードはロゼリエッタ一人の安全の為に、隣国の王太子の身を囮にすることを選んだのだから。

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