sugar spot
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「本日はお越しいただき、ありがとうございます。
オフィスのアテンドをさせていただく、営業部の梨木です。よろしくお願いします…!」

緊張を誤魔化すと、声が大きくなってしまうのはどうしてなんだろう。


そのまま思い切りお辞儀をしたら、目の前の男性は

「あ、そんな、気を遣わないでください。」

と自分も充分しどろもどろになりつつも、
穏やかな声で伝えてくれた。




先程交換した名刺には、

【△社 埼玉支社 総務管理部 
敷波(しきなみ) (とおる)

と書かれている。



松奈さんから、埼玉でオフィスリニューアルの話があると電話を貰ったあの後、直ぐメールも受け取った。
そこには埼玉の支社で、オフィス関連の窓口を担当している方の連絡先が書いてあった。


電話をして、まずはこちらから挨拶に伺いたいと話をしたら、

『…御社のオフィスを見学することは可能ですか…?』

と言われて、今日わざわざ、
うちのビルまで足を運んでもらった。


オフィス家具メーカーだと謳うのだから、当然、フロアの中も、クライアントを案内できるモデルオフィスとして仕上がっている。


先方は、まだうちの会社にリニューアルを依頼するかも決まっていない初歩の段階なので敷波さんお1人だし、全然怖そうな方でも無いのに。

私はオフィスを案内するのだとそう意気込んだだけで、毎回どうしても緊張してしまう。


「梨木はめちゃくちゃ人前得意そうなのにね」と吉澤さんにも散々、研修中に揶揄われた。

全然、全く、得意では無い。 

プレゼンするのも何をするのも、とにかく人一倍の練習で、なんとか人並みのクオリティを作り出すことが出来るという、労力の燃費の悪さを常に抱えている。

今日だって何度もシミュレーションを重ねた。



「梨木さん。先にフロアのマップお渡ししたら?」

「あ!そうですね…!」

出します、と小脇に抱えたバインダーを確認したら、一緒に綴じたと思っていたマップが挟まっておらず、たらりと汗が背中を伝う。

どうやら、最後にアテンド内容をチェックして、そのまま自分のデスクに置いてきてしまったらしい。


「デ、デスクに置いてきました…」

「梨木さん、てんやわんやだな。」

クスクスと笑って「まだ時間あるし取っておいでよ」と促してくれるのは、今日もいつも通り優しい南雲さんだ。


うちのこのフロアも実は数年前にリニューアルをしていて、その時デザイナーとして携わっていた南雲さんが、今日のアテンドもフォローをして下さる。

「もしこのまま、△社のこの案件がうちに決まったら恐らくプロジェクトとしてのデザイナーは俺が引き受けることになると思うから。
梨木さん、案件のもぎ取り、まずよろしくね。」


と、つい昨日プレッシャーのこもった言葉で揶揄われ、見事に青ざめたら、また愉しそうに笑われたのを思い出す。この人は、私の反応を面白すぎだと思う。


南雲さんと敷波さんに「少々お待ちください…!」と断ってから、自分のデスクへと走った。

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