sugar spot
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「す、すごい…!!」

「サンプルなのにこのクオリティ。どう?」

「天才です、工場の方々が!!」

「そこは俺も含めてくれて良いと思うんだけど?」


冷静な突っ込みをもたらしてくれる南雲さんに「そうですね、南雲さんもです」と付け足したら、今度は雑だと指摘された。
先輩は判定が厳しい。
そして今は、それどころでは無い。


私達の前に置かれた、見た目はそこまで斬新なデザインとは言えない、オフィスチェア。

だけど私はしゃがんで強く抱き締めてしまいたくなるくらいには、この椅子への愛着が湧いている。


「早く敷波さんに連絡してあげたら?」

「はい!ありがとうございます…!」


急いでスマホを取り出しながら、此処までの軌跡を思い出すと、もはや涙が滲む。




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3週間前、△社の敷波さんに
うちのオフィスを案内した時。

お洒落過ぎて緊張しますね、と苦笑いしながら興味深く話を聞いてくださっていた彼は、とある一角にたどり着いて、その足を止めた。

「…どうされました?」

「……このデスクだけ、とても背が高いですね?
椅子も全然置いて無いですし。」


それは、コーヒーメーカーやお菓子コーナーのあるカフェスペースの近くに設置されているものだった。

「ここは、"座る"ことを念頭に置いていない空間だからです。」

「え?」

「ちょっと休憩して雑談する時とか、自分の席から移動して電話したり、考え事する時とか。

長時間の滞在じゃなくて、短時間でのリフレッシュを目的にしているから、"立つ"姿勢に適したちょっと脚が長めの机を採用しています。それと同じ理由で、椅子も置いてないんです。」


アテンド中の説明も、勿論緊張する。

だけど後ろから私と敷波さんに着いてきてくれている南雲さんと目が合ったら微笑んでくれたので、自分の説明は間違えていないのだと、少し安堵した。


「…素敵ですね。
うちのオフィスは、松奈のいる東京支社のように、
広さはそこまでありません。

後は、事務職の、いわゆるデスクワークに
従事する人間がとにかく多いんです。」

「成る程、そうなんですね。」

「…座ってばかりの仕事って、走り回る仕事よりずっと楽だって思われるかもしれませんが、その姿勢を毎日続けていると、身体への負担は大きかったりします。

何か、そういう今の現状を、この機会に変えられたらいいなと思ったりはしているのですが。
上司の意見もありますし、僕の一存では決めかねる事も多くて。」


へら、と笑う敷波さんは、松奈さんとは全く違うタイプの方だと思う。
人が良さそうな彼は、どこか常におどおどとした雰囲気がある。


「…何が出来るか、まだ、分かりませんが。
もし弊社にリニューアルを任せていただけるのなら、精一杯考えて、皆さんが出来る限り健康に働けるよう、取り組ませていただきます。」


まだまだ新人の私の笑顔も、きっと頼りないのだろうなと思う。
でも心の内をしっかりと込めて伝えたら、少し驚いた表情の敷波さんは、その後「ありがとうございます」と、笑ってくれた。

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