sugar spot
そのアテンドを終えて数日後。
リニューアルに関する見積もりも敷波さんにお送りしたし、もう後は、きっと他社と比較してもらって、どうするかの返事を貰うだけの状態の中で。
「……電話、来ないなあ。」
ぽつりとコーヒーカップをセットしながらぼやいた言葉が、煩く動作を始めたメーカーのせいで立ち消えた。
敷波さんからの連絡は無い。
ちひろさんと松奈さんが繋いでくださった大事な縁だから、出来る限り守りたかったのだけど。
やっぱり私では駄目だったのだろうか。
溜息を漏らす度に、肩が落ちて首が垂れる。
今日を含めて3日間、あの能面はと言うと、古淵さんと家具を生産している自社の工場に出張へ行っている。
つまり会えない。
そう考えたら完全なる私情も重なって、
再び溜息が溢れた。
熱々のコーヒーを慎重に持って自分のデスクに戻ると
「あ!梨木、良いところに帰ってきた。
電話かかってきてるよ、そっちに繋ぐね。」
少し離れた場所に座る先輩が、そう声をかけてくれる。
「あ、ありがとうございます!!」
もしかして、もしかしなくても、
敷波さんだろうか。
急いでデスクに置かれた固定電話の受話器を取ったら、期待値が高まり過ぎてしまう。
いや少し落ち着こう、と自分に語りかけて点滅している電話の保留ボタンを押す前に一度、深呼吸を挟む。
そして、意気込んでそのボタンを押した瞬間。
「ああ、ごめん!
1番大事な、誰からかを伝えてなかった。
営業の有里君。よろしくね。」
「え、!」
電話を繋いでくれた先輩が思い出したようにまた伝言をくれて、全く予想を外れた人物からだったと驚く間もなく回線を繋げてしまった。
"え、って何。"
その声一つで、また心臓が煩くなる私は、さっきの深呼吸なんか、何の意味も無かったのだと知った。