sugar spot
「エ…?」
言葉とちぐはぐなその笑顔が、もはや怖い。
「敷波さんの上司から、既に特注家具の依頼が来てる。」
「と、特注?」
「長時間のデスクワークにも耐えられる、お尻とか腰の負担を減らせるクッション付きの椅子だって。」
「……そんなのうちの既存商品にありましたっけ。」
「無い。だから特注なんだよ。」
「……嫌な予感がします。」
「リニューアル全体の話をプロジェクトとしては勿論進めつつ、特注家具の要望を聞いて、工場と、後はクッション作ってくれる会社探して連携して打ち合わせして、どのくらいのスケジュール感で並行して進めるのか考えて、そのコストは予算に見合うのかも考えながら早々に見積もり出して、△社に提出しなきゃいけない。」
「も、もう一回言ってください?」
何の息継ぎも無いから、呪文のように耳を右から左へ綺麗に流れていってしまった。
「とりあえず、めちゃくちゃ忙しいってことだね。」
「……、」
やはり綺麗に微笑んだ南雲さんは、「がんばれ!プロジェクトリーダー!」と労ってくれるけどここからのハードな展開を考えたら倒れそうになる。
「俺も勿論手伝うから。
とりあえず丁度今、家具の工場に古淵と有里君行ってるよね。工場の生産ラインの余裕とかどんな感じか、
聞いてもらってる。」
「……あ。」
"別注の件、大丈夫そう。
工場の椅子ラインのメンバーに、
リニューアルのスケジュールとか詳細送って。"
そこで漸く、あの能面の電話の意図を知る。
「さ、さっき有里から連絡ありました。」
「え?」
「…確認してくれたみたいで、大丈夫だって、」
「……仕事、早。」
「本当、ですね。」
驚いたように呟いた南雲さんに同調しか出ない。
あの男だって、相当忙しい筈なのに。
「梨木さんだからかなあ。」
「か、関係ないと思いますけど。」
何かを見透かしたようにそう聞いてくる先輩をかわすのはとてつもなく難儀だけど、懸命に否定を告げる。
"大人しく頑張れば?"
初めての仕事で不安が渦巻く中、それでもあの憎たらしい声を思い出したら少しだけ笑えた。