sugar spot




“オフィスチェアが出来上がったと、今日朝一番に梨木さんが送ってくださった写真を見て、嬉しかった。

絶対これをうちのオフィスに取り入れたいと思いました。

でも正式に請求書を提出したら、
船木は急に怒り出してしまって。
こんなに"椅子ごときに"費用をかけられるか、って。

初めはこのくらいの予算ならあると言われていたから、僕は敢えて、それ以降は確認しなかったんです。

……完全に、上司との連携を怠った僕の責任です。

梨木さん達にも嫌な思いをさせてしまって
申し訳ありませんでした。“


「……敷波さん。
工場には一度、生産のストップをかけました。

コストについてが懸念事項なのだとしたら、いくらでもまた、どんな椅子なら作られるか練り直します。

私も、南雲も、工場の人間も、
きちんと最後まで誠心誠意、取り組みます。」


小さく消えていきそうな彼の声に不安になって、
必死に言葉を繋いだ。

でも、届いて欲しいと思えば思うほど、自分の声も揺れてしまった。

「だから、どうか一緒に頑張って欲しい」と、続けようとした言葉を遮るように、敷波さんが話を続けた。



“……梨木さん。
僕は少し、分からなくなってしまいました。"

「…え?」


"船木や、他の社員にも言われたんです。 

ネット環境が充実して、家でだってやろうと思えばいくらでも仕事ができるこの時代で。

わざわざ新しくオフィスを作る必要は、あるのかと。

…僕は、最初から、間違えていたんでしょうか。“



『…座ってばかりの仕事って、走り回る仕事よりずっと楽だって思われるかもしれませんが、その姿勢を毎日続けていると、身体への負担は大きかったりします。
何か、そういう今の現状を、この機会に変えられたらいいなと思ったりはしているのですが。』


初めて出会った時、どこか辿々しい雰囲気の敷波さんがそれでも正直に打ち明けてくれたオフィスに関する悩みを、解決したいと思っていた。


……だけど、その大切な気持ちを、見失いかけている彼に、私は何一つ、言葉が浮かばない。



"また、きちんと意見をまとめて、ご連絡します。"


そう言って電話が切れた後も、
彼の言葉は、嫌というほどに耳にこびりついていた。






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