sugar spot
「いつもみたいに、定食屋さんかと思ってました。」
「うん、そういうのも考えたんだけどね。
でもお店の中より外の方が、周りともそれなりに距離あるし良いかなって。
梨木ちゃん、何吐き出しても良いよ。許す。」
「……吐き出すって。」
今日のランチは、私はオムライスを、ちひろさんは回鍋肉丼をチョイスした。
「先輩に気を使わず好きなカーを選びなさい」と真面目な顔で言われたので「じゃあオムライスにします」と心を伝えた瞬間、爆速で車へ向かった彼女に口を挟む間もなく、そのまま購入されてしまった。
この先輩は、確かに急に豪速球並みの勢いを放出する。
「なんか今更だけど、私も折角外で梨木ちゃんとピクニックなんだから、お洒落なものにしたら良かった。
写真撮っても、なんか全てが茶色いよ。」
「…そういうとこも、好きです。」
「照れるなあ。」
「ご馳走になってしまってすみません。
いただきます。」
カメラ片手に奮闘している彼女にそう告げたら、一見クールに思える顔立ちをふわりと屈託なく崩す。
「まあ良いや、撮ることより食べよ。」と早々に諦めてスマホをぽいっと机に投げた様子に笑いつつ、ランチのペーパーボックスを開く。
「……梨木ちゃん、オムライス好きなの?」
「あ、はい。割と家でも作ります。」
「そうなんだ。
私は家では、塩辛とか枝豆とか、そんなのばっかりだなあ。」
おしぼりで手を拭きながら、日常を思い出して苦く告げる姿に、やっぱりギャップがあるなと私も微笑んだ。
「じゃあ、落ち込んだ時は何する?」
「…私は、カラオケ行く、とかですかね?」
「音楽好きだもんね。私は、居酒屋に行く。」
「はい、存じ上げてます。
瀬尾さんと行かれる日は退勤前ちょっとソワソワしてるのが可愛かったです。」
「え?なんでそんなとんだ恥晒し今更言う!?」
割り箸を持って絶望感漂う空気になったちひろさんに、思わず今度は声を出して笑ってしまった。
「梨木ちゃんは、1人の時間何してる?」
私が笑ったのを見守ったちひろさんは、また徐に質問を重ねて来た。
「…え。
やっぱり、大好きなバンドの音楽聴いたりDVDとか見たりしてますかね。ちひろさんは?」
「私は最近、自分でハイボール作る時のウイスキーとソーダの絶妙な割合をいつも実験してる。」
「何してるんですか。」
思わず突っ込んだら、本当だよね、と特に気にしない素振りでまた楽しさを頬に浮かべた。
___その表情が、あまりにも優しくて。
私は少しずつ、このなんの脈略も無いように思える会話の意図に、気づき始めている。
「…ちひろさん。
私は、会社で泣くなら非常階段、って感じです。」
「誰だ私の後輩を泣かせたのは。
ちなみに私はトイレの個室。
トイレットペーパーで涙拭いちゃだめだよ、顔荒れるから。」
なんの忠告だろう。
此処はトイレじゃないけど、何故だか、
瞼はもうとっくの前から熱い気もする。
「…1つも、答えが被らないですね。」
「そうだね。」
ふ、とまた優しく口角を綺麗に上げた彼女は、とうとうお箸を一度置いて、それは、私に集中するという意思表示のように勝手に解釈できた。
「梨木ちゃん。
例えば少し重なるところがあったとしても。
誰かと誰かの全部が被るなんて、
ある筈が無いんだよ。」
「……、」
彼女からの、なんの脈略も無いように思える質問の意図に、気づき始めている、なんて嘘だ。
ずっと、気付いていた。