sugar spot



「…ちひろさん。」

「ん?」

「……私ずっと、ちひろさんになりたかったです。」


私もとうとう、スプーンを置いて目の前の彼女を見つめる。
白状してしまったら、堰き止めて来た何かが溢れる感覚を知った。


「ちひろさんを目指すことが、
営業の仕事をしていく上では、必要なんだって、」


"こんにちは。良かったらお話しませんか?"

出会った最初からずっと、憧れてた。

傍で一緒に仕事をするようになったら、
もっと好きになって、びっくりした。


"いつか、ちひろさんみたいになりたい。"


だけどいつしか。

"絶対、ちひろさんのように、ならなきゃいけない"
 
その比重が、どんどん増していって。

____それは同時に、言いようのない焦りを生んだ。


その背中を見つめて必死に走る度に、
足も、心も、面白いくらいにもつれた。

だけど、それを解くことより、
どんな方法でも良いから、距離を縮めたかった。



「さっきの質問だけでも、
梨木ちゃん、もう分かるよね?」

「…はい。」

優しく包み込んでくれるみたいな笑顔に
促されてすぐに頷いた。


「私と、梨木ちゃんは、違うよ。」

「………、」

とてもとても、単純な話だった。


"同じ"なんて、絶対、ありえないのに。

でも、その簡単な答えに辿り着けなくなるくらい、
辿り着くことを恐れてしまうくらい、

私は「私」を、自分で追い詰めていた。


自分に自信が無いからこそ、
向き合うよりも誰かを投影することを
選んでいたのだと。

漸く自覚したら、いよいよ涙が頬を濡らし始めた。



  お前は、"誰"を目指してんの?

  酒が強くなったら、"誰か"になれるわけ?


もしかして、あの男は。


   _____お前は、お前だろ。 


ずっと最初から、私の葛藤に気づいていたのかな。


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