sugar spot
「ちひろさん、」
雑に手で頬を拭いながら、名前を呼んだ。
「うん?」
ちゃんと聞いてるよと、まるで言ってくれてるような相槌に安心する。
もうずっと苦しかったレースを
漸く、終わりに出来る気がする。
「…私、お酒弱いんです。
すぐに緊張するし人前で話すのも、こんな大雑把な性格のくせに、そんなに得意じゃない。
でも。
ポンコツな自分が起こしそうなリスクを最小限にするための先々の準備とか。
失敗した後も、何ができるかとか。
そういうこと、一生懸命考えます。」
___"それが私だから"と。
震え切った声で伝えたら、何度も頷いて笑ってくれる彼女に反比例してやっぱり涙が出た。
「梨木ちゃんにはお守りのファイルもあるもんね。」
「………え?」
驚いて口を開いた呆けた顔をしたら、気まずそうに視線を外したちひろさんが、苦笑する。
その話は、私は配属されてから
ちひろさんにはしていない。
___あの説明会でしか、していない。
「……私のこと、気づいてたんですか?」
「途中でね。
大事にファイル使ってるの、知ってからかな。
あれ、なんか説明会でもそんな子が居た気がする。
しかも"2人"。
そう思った瞬間、顔も思い出せるから不思議だよね。」
『 ……そのファイル。』
『はい?』
『ついさっき、ここで話聞いてくれた方も持ってた気がします。可愛いなーと思って見てたので。』
『え!?本当ですか?』
「……もう1人、ヒント教えた方が良い?」
「…いえ、大丈夫です。
でもなんとなく、
腹立つ能面の男かなって、気がします。」
顔を顰めたまま予想を告げたら向けられた笑顔に、どうやら正解だったのだと悟った。
「…ちひろさん、ずっと憧れてました。
これからも憧れです。
だけど、私は私で、頑張ってみます。」
「最高、私の後輩、満点可愛い。
企画部連れて行きたいなあ。」
楽しそうに空気を揺らす可愛い彼女に、
私も漸く微笑む。
「まあでもそんなことしたら、有里君に怒られるか」
「い、意味わかりません。」
突然の男の名前に、動揺を隠してなるべく冷静に返事をしたけど、ちひろさんは何か見透かしたように、
「説明会での言葉、間違えてなかったでしょ?」
と悪戯に笑う。
"___同期ってね、かけがえのない存在だよ。"
やっぱり、この人には敵わない。