sugar spot


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「あれ梨木。今日前から外に出る予定だったっけ?」

「…いえ。急遽お話ししたいと私からお願いして、先方がお受けしてくださったんです。」


デスクで慌ただしく出発の準備をしていると、部長に声をかけられた。
もう前のように忘れたりしない、と机に準備していた書類の全てをしっかりバッグに詰め込む。


「…敷波さん?」

「はい。あの椅子の件の後、向こうから連絡するって言われてたんですが、厚かましくお話しさせて欲しいってアポをとりました。」

「……へえ、梨木にしては珍しいアプローチだな。」


確かに、そうかもしれない。

今までだったら、きっと暫く様子を見て、
自分から動いたり出来なかったかもしれない。



『あの神様の香月さんにね、言われたことがある。

”取引先とか一緒に仕事をしてる会社さんと、凄く良い関係を築けるのは珍しいことだ”って。

私も、そう思う。
うまく噛み合わないまま、仕事が終わってしまうことも山程あるんだよ。

でも梨木ちゃんにその担当さんは悩みを打ち明けてくれたんでしょう?
それはきっとサインだよ。梨木ちゃんだから、見せてくれた弱さかもしれない。』


仕事がドン詰まりしていることを、敷波さんの言葉と共に伝えたら、ちひろさんがそう言ってくれた。


「部長。」

「ん?」

「…この案件、
このままじゃ止まってしまうかもしれません。」

「……梨木はそういう危機感を持ってるのか。」



部長はいつも軽い口ぶりだから、本当に深刻に感じているのか分かりにくいけど、今日は少し違う。

「はい。でも今ここでリニューアルは白紙なんて言われたら私は白目剥いて倒れて死にます。」

「…嗚呼、それは俺もだな。
既にプロジェクトとして動き出してるしな。」

2人して遠い目になりつつ状況を実感して、お互い顔を見合わせる。


「梨木。俺はみんなの各案件の進捗を見てはいるけど、細かい先方とのやり取りの部分は、分からないところも多い。」

「はい。」

私だけじゃない、営業1課のみんなの案件の詳細まで全て追うことはあまりに難儀だと流石に分かっている。

「梨木は、枡川がいなくなった部分も頑張ろうとしてくれてるの分かってたけど、いつも固い感じだったからな。

自分の考えでそう決めたなら、行ってくれば良い。」


「はい。悪足掻き、しようと思います。」

「…怒られる結果になったら俺が話するよ。
すごい嫌だけど。出来れば行きたくないけど。」

「…、」

この人、とても正直だな。

配属されてから、部長はあまり私達の仕事に細かく口を挟むことは無かった。

所謂、"放任主義"なのだろうかと思ってきたけどこうして軽く言いながらも、最後の砦として、構えてくれているのはとても有難いことなのだと。

自分がこうして勇気を出して向き合うことになったからこそ、知られたのだと思う。


「行ってきます」と告げて、背中に先輩達からの返事を聞きながら荷物を抱えてオフィスを出た。

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