sugar spot
突然のことに女の身体がすぐ強張るのを感じて、それをもたらしているのは自分のくせに、気休めのように後頭部に手を回しながら触り心地の良い髪を撫でた。
「っ、ん」
でも触れ合う角度を変えながら深さを増す中で、息を溢すような声が耳に届いたら、止めてやれそうには無い。
狭いソファで自分の腕の中に女を閉じ込めて荒く唇を食んでいると、背中に細い腕が縋るように回された。
暫くして近さを保ったままに漸く唇を離した時、熱を多量に閉じ込めて濡れた大きな瞳と視線がぶつかる。
いつの間にか完全に、ソファのシートに沈んで俺に覆い被さられているから、身動きの取れない中で息を整えながら、ひたすらに睨まれた。
「…嘘つき。」
「何が。」
火照った頬を指で撫でながら聞くと、ちょっと擽ったそうに片目を細める仕草がどこか猫のように見える。
「…DVD観るって、言った、」
「逆に本当にそれだけだと思ってたわけ?」
鼻先を軽く擦り合わせて尋ねたら、ぐ、と唇を噛んで悔しそうに押し黙る様子に、心の中で何かが疼いて浅く笑う。
そのまま不服そうに視線を逸らした女が
「でも私はあんたと違ってまだ、全然緊張してるから。」
「は?」
「そ、そっちは、
そういうの無いのかもしれないけど。」
「何で決めつけなんだよ。」
「さっき、言ったじゃん。まだ緊張してんの?って。あんたはそんなこと聞けるくらい余裕なんでしょ。」
じと、と睨まれてもとっくに水分を含んで潤んだ眼差しに鋭さは無いし、むしろ逆の効果しか生まれない。
『お前、まだ緊張してたわけ?』
確かにそう言ったが、それは部屋までの道中と、部屋に入ってからのこの女のギャップの話だ。
何でこいつはいつも、俺が思っているのとは別の方向へと解釈を見事に進めるのか。
「おい馬鹿。」
「なんでよ。」
「余裕とかじゃなくて、
嬉しかったから聞いたんだろ。」
「……嬉しかった?」
「お前がDVDに逃げたくなるくらい、
俺のこと意識してんのが。」
散々、俺とこの女はすれ違ってきたから
もうこれ以上は懲り懲りだ。
そう思いながらなるべく本心を告げようと努めたら、言わなくて良いことだった気がすると、今更の後悔が襲う。
告げ切って気まずさを抱えると、きょとんとした間抜けな顔のまま一心にこちらを見つめる眼差しに気づいた。
そして暫くの沈黙の後、細い声が
「そっちの方が、絶対馬鹿だし。」
と伝えてくる。
「は?」
なんでだよ、と言う前にとても臆病な仕草で頬に手を添えられ、言葉が引っ込んだ。
「……わたし、穂高のことを
意識しなかったこと、いっかいも、無いよ。」
その臆病さに呼応するみたいな、
途切れ途切れの、柔い声だった。