sugar spot
「…え?」
「一歩手前というか、犯罪か。
酔っ払った馬鹿を無理やり連れて行って、高額商品売りつけようとしてるんですもんね。」
淡々と語られた言葉は、先程までの現状を冷静に説明していた。
それより馬鹿って何回言うんだこの男。
「……名刺、ありがとうございます。
まあどうせ嘘の情報ばっかりなんでしょうけど、警察でも会社のリスクマネジメント課でも、持っていけば今後の対策には繋がると思うんで。」
男の右目の涙袋にある黒子が、中性的な笑顔を更に綺麗に見せる。感情があまり読めない。
「…あと、あんた。
嫌がってる女に触ろうとすんのは、普通にアウトだから。もう今から一緒に警察行きますか?」
それは、どこから出てるのって言いたくなるくらいに低くて冷たいトーンで、立って居た男性に投げられた。
ふらつく頭でもその張り詰めた厳しさは流石に分かって、側にいた男女の顔が青ざめているのも分かった。
「…えっと、なんか勘違い?してたみたいなので僕達はこれで!!!良い人生を!」
最後はもはや言い逃げのように謎の言葉を告げて去っていく2人を、しゃがんだままに見送って。
暫しの沈黙の末、長くて深い溜息を吐いた男が私と向かい合うようにしゃがみ込んで器用に頬杖をつく。
自然と視線が合うと、やけに鋭くした瞳で私を一瞥して、そのまま舌打ちを受けた。
「……何で、」
ここに居るの、までは言葉が続かなくて、そう中途半端に言葉が止まる。
「…お前、まじで改名しろよ。」
「………は?」
全く今までの流れにそぐわない男の発言に、最悪の気分のままそう聞き返す。何の話だろうか。
「酒弱いのに馬鹿だからビール頼んで酔っ払って、馬鹿だから外で酔い覚ましして変な奴らに絡まれて、馬鹿だから助けも呼ばないし、連れ去られそうになって?
…お前、梨木 "ば花緒"に改名した方が良い。」
「………」
馬鹿をこれでもかと言うほど連呼された後。
なんとも低レベルな提案を吹っかけられて、怒りで倒れそうになる。