sugar spot
「ちひろと瀬尾なんか、付き合ってからもずーっと飽きることなく、どヘタレを繰り返してんだから。」
「ええ、そうですね。返す言葉は無いです。」
亜子さんに指摘されて苦い表情のまま、だけど従順に頷くちひろさんはやはり可愛らしい。
「だから別に急に"上手く"付き合う必要なんか無いでしょ。
私は、あの残業の時みたいに、意地張りまくってるくせにお互い結局大切で、近づき方を模索してるみたいな、そういうあんた達の研究、楽しかったし。」
亜子さんはまた勝手にそんな風に告げて、でもその裏で「皆そんなもんなんだから、ゆっくり頑張っていけば?」と言ってくれている気もする。
一方的にあの男への思いをひた隠しにしながらも募らせていたあの頃と、今は、やっぱり違う。
相手にどう思われてるのか、それが気になってより一層臆病にも、面倒にもなった。
『もうずっと、
こっちだって恋愛対象に決まってるだろ。』
でも、やっと向き合えたあの日を思い出せば、戻ることはできない。
あの男の隣を、私はもう手放せないし、手放したく無い。
「…今日やっぱり有里の家に行こうと、思います。」
そんな宣言を小さく伝えて、恐る恐る目線を上げると3人ともとても優しく微笑んでくれていて、私も釣られてしまった。
「……ねえ花緒。
一つだけ聞かせてほしいんだけど。」
「なんですか?」
「有里君って絶対に夜はドSだと思うんだけど、どう?」
「……」
どうってなんだ。
亜子さんの最後の砲撃に顔を真っ赤にして絶句していると、隣で奈憂が
「まって、推しのそういう話は刺激が強いです…!
心を整える時間ください!!」
と私の代わりに勝手に返事をしている。
ちょっと黙っていてくれないだろうか。
「……教えないです。」
「えーなんでよケチ。」
口を尖らせて、丁度運ばれてきた味噌漬けクリームチーズに箸を伸ばす亜子さんは所作まで美しいけれど、負けるわけにはいかない。
だって。
「わ、私だけが、知っていたいので。」
どこでこんな独占欲まで既に持ち合わせていたのか、紡いだ言葉で自分自身も驚いてしまうけれど、オレンジジュースでも、酔う時は酔うのだと言い訳するしか無い。
ぐい、と傍のグラスを慌てて仰いで、冷えたそれを喉に流し込んでも火照りはずっと続いたままだ。
「ちょっと、聞いた?」
「梨木ちゃんに胸キュンが止まらない。」
「花緒お願い。もっかい言って?
録音してアーリーに送るから。」
「馬鹿じゃないの!?」
また好き勝手に感想を与えてくる人達に「なんか注文しますか!!」と荒々しくメニューを押し付けた。