sugar spot
◻︎


「じゃあそろそろお開きにする?
あの童貞も待ってんでしょ。」

「亜子その呼び方、他の場所でしないでね。」


「私は全然気にしないけど?」

「うん?貴女はね?」


2人のいつも通りの軽快な会話を聞きつつ、帰り支度を奈憂と進める。

秋から冬へと丁度移ろい始めたこの時期、特に夜は冷え込みが増していると感じるようになった。


壁にかけていた上着をハンガーから取り外していると隣で同じように軽めのアウターを羽織る女が、肩を触れ合わせるように私に近付いて顔を覗き込んでくる。


「なに?」

「…花緒、アーリーに家行くって連絡したの?」

「………まだ。」

「もー!早く言わないと!
アーリーだって誰かと飲みに行ってるかもしれないよ?」

「…そっか。
もしそうなら逆に連絡して、邪魔したらまずいかな。」

「いやいや気にせず邪魔していこ!?」

コソコソと尋ねてきていた筈の奈憂は、最後はとても大きな声で必死にそう突っ込んできた。情緒がよく掴めない。





「え。瀬尾達、このすぐ近くのお店で飲んでるんだって。会食はもう終わって、古淵とか合流してるって。」


「うーわ。
華金の古淵とか、世の中で1番うるさいわ。」

「うん。
面倒だからそろそろあっちもお開きにするって。」

スマホを確認したちひろさんが驚いたように伝えてくれて、亜子さんが心底面倒そうな顔で反応している。


「え〜!私、ちひろさんの彼氏さん拝みたいです…!
アンニュイ系のイケメンだとお噂はかねがね伺ってますが、実際ちゃんとお目にかかったこと無いので。」

「アンニュイじゃなくて気怠いヘタレね。

じゃあちひろ、このお店の前で待ち合わせして帰れば?
あ、言っとくけど古淵はマジで要らないから。
ちゃんと撒いてこいって言って。」


「そうだね、ちょっと連絡してみる。」


スマホを耳に当てて、きっと恐らく瀬尾さんに電話をかけているちひろさんは、少しだけ私達と距離を取る。


直ぐに出てくれたのか、アルコールで赤くなった顔をふわりと解しながら「あ、もしもし?お疲れ様。」と語りかける彼女は本当に可愛い。

凄く、瀬尾さんが好きなんだなあと伝わる。




「…私、ちひろさんになりたいって思うのはもう、やめたんですけど、」

「うん?」

テーブルの周りに立ってそれを待つ亜子さんと奈憂に、何の脈絡も無く言葉が出た。

手に握りしめたスマホを、まだ操作は出来ていない。



「でもあんな風に、彼氏に可愛く連絡できる所は、やっぱり見習った方が良いですね。」

弱りきった顔で告げたら、2人してきょとん、とした顔の後、クスクスと笑って頷いてくれる。


「…さ。
じゃあここで可愛く電話して?動画撮るから。」

「頑張れ花緒。」

「……外で電話してきます。」


何故かスマホを私に向けて構えてくる2人に冷たく伝えて背中を見せると、後ろでまた笑われていた。

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