sugar spot
でもお店を出て、入り口を少しだけ避けて深呼吸を何度も繰り返した後、意を決してコールをしたけれどあの男は電話に出なかった。
奈憂が言う通り、誰かと飲みに行ったりしているのかもしれない。
それこそ同期男子だけでもよく飲んだりしているみたいだからと、そこまで考えるとやはり邪魔するのは違う気がしてきた。
……でも、やっぱり今日会いたい。
ぐるぐると思考が行ったり来たりを繰り返してしまう。面倒選手権があれば優勝できるレベルに今日の自分が面倒だと自覚できて、それが余計に辛い。
でもとりあえずメッセージを送ってから決めようと、トーク画面を開こうとすると
「お姉さん!!」
「え。」
とても直ぐ近くで聞こえてきた言葉に、殆ど無意識のうちに顔を上げる。
口の開いた間抜けな顔で正面を見ると、大学生くらいの男子2人が、肩を組んで私の目の前に立っていた。
「……わ、私ですか?」
「はい。
お姉さん、この辺でちょっと良い感じの店とか知りませんか??」
「え。」
突拍子もなさすぎる問いかけに戸惑いつつ、もう一度目の前の2人をきちんと観察すると、足元はゆらゆらとおぼつかないし、明らかにお酒を飲んで酔っ払っていると分かる。
「……私、この辺り全然詳しく無いんです。
ごめんなさい。」
これは、所謂"ナンパ"だと、さすが東京だなと内心思いつつも、努めて冷静に告げた。
「あ〜〜そうなんすね。
こいつ、今度気になってる子に告白する予定なんすけど、良い感じの店を永遠に探してるんですよ〜」
「まじで探せば探すほど、分かんなくて。」
「………なるほど?」
は、恥ずかしい…!全然ナンパじゃ無かった。
自惚れた自分を咳払いして蹴散らしつつ、
「あの、分からないですけど。
その辺の知らない女子に聞いたお店なんて、連れて行かれても嬉しく無いと思います。」
「……、」
「逆に、貴方のこと好きだったら、どこでもきっと
嬉しいです。…頑張ってください。」
自分の考えを告げて、後悔が襲う。
何故私は、急に酔っ払った青年達を鼓舞しているのだろうか。
でも、本心だった。
どんな場所でも、なんでも、いつだって嬉しい。
私はあの男が居てくれたらそれだけで、良い。
「お姉さん良い人っすね〜〜!!?
握手お願いします!!!」
「俺もしてください!」
「…え、それは嫌です。」
「塩対応〜〜」
ノリはやはり軽いままなので、それにはちゃんと拒否しつつ「じゃあ」とその場を離れようとした時。
隣からぐ、ととても強く腕を引かれて、それなりにヒールがちゃんとあるパンプスでは、その小さな衝撃でもあっさり身体のバランスを崩す。
左側に傾いていく身体がぽす、と何かに優しく抱きとめられたと感じた次の瞬間には、よく知っている香りと温度に既に包まれていた。