sugar spot
「なんで…?」
腕で体を拘束された状態のままにゆっくりと見上げて、その人物を確認したら声が漏れた。
…本当は視界にその姿を映すよりもずっと前から、
誰の仕業かなんて分かっていた気もする。
私と一瞬視線を合わせた綺麗なアーモンドの瞳は苛立ちを孕んで細まって、その後すぐに正面へと視線を移す。
「…この酔っ払いが、
何かご迷惑をおかけしましたか。」
誰が酔っ払いだ。
文句を言ってやりたいのに、ぐ、と後頭部に手を回して自分の胸元に私の顔を容赦なく押さえつけてくるこの能面のせいで、身動きが取れないし反論も出来ない。
「あ、いえいえ〜!俺ら、
ちょっと相談乗ってもらってただけなんすよ〜!」
「でもそこのお姉さんがまじ良い言葉くれたんで、もう大丈夫です!初心に帰ります!」
「…良い言葉?」
「"好きな人となら、どんな場所に行っても嬉しい"
ぶっ刺さりました、あざした〜!」
最悪だ。
ぶっ刺さったにしては感想が軽すぎる。
最後は「お幸せに〜」なんて酔っ払い全開の声色のまま煽りまで受けたのを、背中で聞いてから数秒後。
「お前は本当、毎回ありとあらゆるパターンで絡まれるのやめろ。」
「もはや私のせいじゃ無いと思うんだけど。」
漸く自分の肩口に私の顔を押し付けてきた手の拘束は緩んだけれど、向き合って抱きしめる態勢をやめる気配はこの男には無い。
会いたいと、今しがた思っていた男がこんなに急に目の前に現れてしまって、どういう反応をすれば良いのか。
チラリとバレないように目線だけを上にあげたつもりだったのに、整った中性的な顔の男としっかり視線が交わってしまった。
「…なんで、ここに居るの。」
近い距離で、自分の動悸の激しさを誤魔化すように抱えていた疑問をぶつけたら、節の目立つ長い指がそっと私の頬に添えられる。
やけに丁寧なその仕草に、もっと心はドキドキして、呼吸だって止まりそう。
見つめ合ったままだし、もうなんか、色々この張り詰めた空気に耐えられないと男の名前を呼ぼうとすると
「いた、!?」
能面を携えた男に、ちゃんと強さを持って頬を思い切りつねられた。