sugar spot
今のこの体勢を見られたことへの恥ずかしさで、また身体が熱い。
咄嗟に離れようとしたのに、全然それを許してくれないから、ただ男を睨みつけるしか出来なくなった。
「…芦野。嘘ついただろ。」
「え、嘘じゃ無いよ?
"ば花緒が、ビール頼んでてもう大変〜〜!"
ってメッセージ送っただけだよ私。」
「お前、タチ悪い。」
「アーリーは怒ってもイケメンだね。」
全く噛み合わない会話の最後は、男の舌打ちで締め括られた。
「…私がお酒飲んでるって思ったから、来たの?」
「……、」
再び視線が戻されて、その綺麗な瞳にぶつかった時、するりと言葉が溢れてしまっていた。
「もしかして心配、してくれたの。」
何も告げず、ただ眉間に皺は寄せつつ瞳を細める男のこの態度は、肯定だと受け取って良いのだろうか。
気まずく息を吐き出して、漸く私に触れていた手を離した男は、ポケットからスマホを取り出す。
画面がずっと光っていて、ぽんぽんと通知バナーが重ねられる様子からは、どうやら耐えず誰かから連絡が来ているらしい。
あんなに心臓が煩くなって離して欲しいと思った筈なのに、いざ距離が出来たら寂しいとか、そういう気持ちを簡単に生まれさせる自分に呆れてしまう。
「…近くで飲んでたから様子見に来た。
まあ意味無かったけど。
お前、2次会とかあんの?
俺も長濱から連絡来てるし、」
同期男子の会にまた戻ると、
多分告げようとしたのだと思う。
その言葉を予期して、遮るように能面の腕をぎゅうと掴んでしまったのは、殆ど無意識の中でのことだった。
「……なに。」
自分の行動を自覚したら、当たり前に後悔に襲われる。
嗚呼もう。
すぐ傍で、揶揄うのが趣味みたいな2人がきっと、ニヤニヤと見守っていると分かるのに。
"近くで飲んでたから様子見に来た。
まあ意味無かったけど。"
「意味、無くないし。」
「は?」
「…既に二転三転したくせに、また転んだら怒る?」
「何を言ってんのお前は。」
「だ、だから。
やっぱりMステ、今日、観たいんだけど。」
華の金曜日は、街が浮ついている。
繁華街と呼んで何の遜色も無いこの辺りも、今週の仕事を終えた大人達が集って歩く姿がそこら中に見受けられて、賑やかしい音で溢れている。
私のこの、か細すぎる身勝手な提案は、
ちゃんと男に聞こえたのかさえ危うい。
視線なんか、勿論あげられるわけが無い。
夜に覆われて黒く映るアスファルトをひたすらに眺める中で、全身で拍動を繰り返しているみたいな、そういう感覚の中にじっと身を置いて数秒後。
腕を掴んでいた手を骨張ったひと回り大きな手に包まれた。