sugar spot
「…荷物、それだけ?」
「え。あ、うん。」
離れることの無い手で、感じる熱に驚く間もあまり無いまま、尋ねられた答えになんとか頷いて、恐る恐る目線を上げる。
転んでばっかりの私を怒った顔だろうかと、若干腰が引けていたから、対峙した眼差しに鋭さが無くて、少し拍子抜けしてしまう。
能面の男は、私の反応に確かめるように頷いて、そのまま奈憂と亜子さんの方を見向いた。
「……こいつ抜けても、問題無いですか。」
「ぜんっっぜん問題無いです〜〜
もうこっちも、お開きの予定だったから。」
「有里君は、拗らせてるけどヘタレとはまた違うのね。」
「……別に拗らせて無いです。」
「へえ。大人びた顔して、
言い返してくる子供っぽさもあると。」
「このギャップのある感じが最高なんですよ、
うちの推しは。」
いつも冷静そうなこの男でも、流石に亜子さん達には敵わないらしい。敵わないというか、戦いたくなさそう。
進められる会話に、口を挟む隙が無い。
どうしようかと考えあぐねていると、繋がれた手をぐいっと引っ張られて、男に急に距離が近づいた。
「出来るだけ完璧でいたいと思っても、この女が、どうしてもそれを崩してくるので無理です。
もう阿保らしくて、諦めました。」
失礼します、ときっちり挨拶はしながらも、
その声はどこか愉しそうに聞こえた。
「なるほど?」
笑う亜子さんと、隣で何故かまた目頭を押さえている奈憂を見て、ふと少しだけ口角を緩ませた男は、私の手を引いて、歩き出してしまう。
「…ち、ちひろさんにもよろしく伝えてください!」
振り返って、まだお店から出てきていなかった彼女を思って2人に声をかけたら、
「ダーリンに連行されたって言っとくから大丈夫」と、何も大丈夫では無い不安な返事が返ってきた。