sugar spot

◻︎


そうして、今日の研修を漸く終えた。

なんか、絶対的に隣の女のせいだとは思うが、いつも以上に色んな意味で疲労感が凄い。



「な〜今月で全体研修も終わるし、丁度月末休みだし、みんなでバーベキューでもする?」


帰り支度を各々している最中、お祭り男である長濱が全員に向けて声をかける。

この男、あのスパルタ講習の後でどこにそんな計画を立てようとする元気が残っているのか、ある意味尊敬してしまう。


今月末、と自分の中で繰り返したら先に立てていた予定を思い出す。
その日は、好きなバンドのPVやライブ時の撮影を担当しているカメラマンの写真展が始まる日だ。


初日に行きたいと考えていたから、勿論そちらを優先したい。

デスク周りを片付けながら、「断ったら長濱の追求が面倒そう」と予想の時点でまた疲弊していると、前に座っていた同期が、隣の女に予定を尋ねている。


明らかに気がありそうなその問いかけに、こいつは何と答えるのか、何となく行末を見守っていると


「…えっと、ちょっと先約があって。」

先週のように、申し訳なさは抱えつつもしっかりと断る声が耳に届く。



その後、残念そうに去って行く同期に、なんとなくほっとしている自分を掻き消すように片付けを進めていると、隣から

「____え。」

と、間抜けな声が聞こえてきた。



「…なに「もしかして、好きなの!?」

俺の問いかけを遮り、食い入るように近づいてきた女が、急に視界を占領する。

その勢いに若干圧倒されて、更にふわっと柔らかい香りが鼻腔を擽って、鼓動があっさり乱れたことを誤魔化すように「近い。」と指摘した。


急になんだ、と疑問をぶつけようとすると至近距離で見つめた大きな瞳が、今日1番の輝きを放って、一心に俺の手元に注がれている。



「…それ、初期の頃のアルバムの特典でしょ。」

「そうだけど。」

「私も、持ってる。」


どう考えてもマニアックな域に達している人間しか持ち合わせないであろう"このファイル"を?



『大丈夫。絶対に惚れない。
あのボーカルを超えること、絶対無いから。』


こいつが言ってたの、
このバンドの話だったのかよ。

そこに気づいた途端、やたらと愉しそうな笑顔で俺に提案を持ちかけてきた芦野の意図が、漸く分かった。




「………ふうん。」

でもそんな急に、自分の態度なんて変えられない。
曖昧に相槌を打って、女が指摘してきたファイルを揺らす。


「……私が1番好きな曲は、○○。あんたは?」

「急に何。……□□。」

こいつ、1曲目でインディーズ時代のものを選んできた。なかなか手強い、と思った瞬間、


「…まあ、ファンなのは認めるわ。」

「お前、誰目線なんだよ。」


やたらと上からな感想は、何処かあどけなさの残る表情と共に伝えられる。

思わずそれにツッコミながらも、自分の心も柔く解けて行く感覚を知った。

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