sugar spot
「このバンドに関するものが見られるなら、カメラマンの写真展とかも行くレベルだから。」
あんなに初めは詰め寄ってきていたくせに、本当に俺も好きだと認識した途端、そっぽを向いたまま、また自分のファン度だけを主張される。
焦茶色の髪から覗く耳が少し赤い。
自分でも意図せず高まった気持ちを懸命にクールダウンしようとしているかの様な女を黙って見つめていたら、ただ、なんとなく。
「…写真展って、今月末の?」
「…そう、だけど…表参道であるやつ。」
「それ、もう前売り買った。」
「え!?」
なんとなく、その間抜けな顔を
こっちに向かせたいとか。
「声でかい。馬鹿。」
「……馬鹿は、言う必要あった?」
「お前、スタジオまで行けんの。
ここ裏参道の方だから、田舎者には難しそう。」
「…あんた、その能面で言うのやめてくれる?
喧嘩売ってんのか、素で失礼なのかよく分からないけど腹立つ。
……う、裏参道って何なんですか。」
『私は地理感が全然分かってないから、いつも迅速に動けるように、クレーム対応以前に、ちゃんと先に準備しておかないとなって思っただけ。』
午後のワークで、"先ずは地図を広げて調べる"なんて、あまりに遠回りで不器用で、俺とは違う真っ直ぐ過ぎる意見を伝えてくるこの女の道案内、他の奴にさせるのは面白くないとか。
そういうことを思ってしまっていた時点で、
完全にもう、どう足掻いても気にはなっていた。
◻︎
「あ。有里。
今日は梨木にExcel教えてくれたり、ありがとね。」
「…いえ。」
帰り際、吉澤さんにそう声をかけられて、研修部屋を出ようとしていた足が止まる。
女は、最後に「次のアルバム、現時点の収録曲の予想だけで考えても、もう神アルバムって私は分かってるから。」と謎の宣言を残して去って行った。
そんなのこっちだって知ってる。
「…有里。
今日のクレーム対応ワーク、流石良い解答だったわね。」
「ありがとうございます。」
「でも、解答よりあんたのフィードバックがより良かったかもね。」
プロジェクターに繋いでいたコードを手慣れた様子で片付けながら何の気無しに告げられた言葉を、ただ黙って受け取った。
「"梨木さんは、失敗と同時に、相手に何ができるのか自分のウィークポイントを考慮して、自然と考えられる方でした。"
1日で随分、距離縮まったのね。」
「……そんなことは無いですが。」
とても揶揄っている雰囲気、では無く、
かといって好奇心が全く無い表情とも言い難い。
反応が1番し辛い言葉に、眉間の皺を寄せて顰めた顔をつくると、吉澤さんは一層笑顔になった。
「…まあ、こっから時間かかりそうではあるわね。」
「…は?」
謎の呟きはその時はいまいちよく分からなかったが、後々考えたら、やはりこの人は預言者か何かだったのかもしれない。