sugar spot

________________

______



「……え、お前ウケる。」

「煩い。」


なんだその雑な表現は、と心で呟きつつ枝豆に手を伸ばす俺を見守る男が、けらけらと楽しそうに笑っている。


「梨木が、南雲さんのこと好きって勘違いして
色々拗らせてたんか!なんだそれ!」

「……お前さっさと酔って潰れろ。」


「こんな楽しい話聞いててまだ酔えるかよ」とやはり豪快に泣き笑う長濱は、バシバシ俺の肩を叩いてくる。なんだこいつ、めちゃくちゃうざい。



「は〜南雲さんなあ。
まあ、あの人はかっけーよなあ。
仕事出来るし、紳士!って感じ。
彼女いねーんかな。」


「…さあ。」


勘違いを、ひた走りさせた。


研修の最中、あの女が"憧れの人"を追いかけていると知って、「じゃあ2人で出かけるとかアウト過ぎるだろ何考えてんだよこいつは」と、苛立ちの中で、まだ引き返せる筈だと、なんとか身を引いて。

営業部に配属された後、女が懸命に設計図に向き合ったり、話をする時にその顔を赤面させたり、そういうのを目撃する度に、勝手に例の相手が南雲さんなのだと、確信してしまっていた。


「南雲さんに謝ったわけ?」

「…まあ、変な態度になった時も多分あったし。」


引き返せる筈だと、たかを括っていた自分の見通しは
あまりに甘かった。

側で仕事をする姿を見てしまったら、
嫌でも思い知る。


先輩に近づきたいといつもあがいて、
プレゼンやオフィスアテンドの前は練習のせいで目の下のクマが濃い顔を緊張で強ばらせて。

仕事でミスをしてもなんとか必死に
プラスアルファで出来ることを考えて、
いつも歪みあっていた俺のことも結局、助けに来て。


"この女、死ぬほど不器用なんじゃ無いのか。"



不器用で、たまらなく可愛いと思ってしまった。

そういうあいつを、
絶対、誰にも渡したくなかった。



『いやー、有里君まじで敵視してたもんなあ。俺は梨木さんのこと可愛がってるけど勿論後輩として、だから。
まあ、俺もキューピッドの1人ってことで。』


改めて謝罪に行くと、きょとんと意外そうな表情の後そう言って「また飲みに行くか」と笑っていた。



「お、良いな。飲みに行こうぜ。」

「何でお前も来るんだよ。」

「俺もキューピッドだろうが!」




不服そうに勢いよく主張した男に、思わず少し破顔すると、

「…不意打ち穂高君の笑顔、きゅん。」

と、結局揶揄って雰囲気をふざけた感じに崩してくるので、直ぐに顔を戻した。


その拍子に、スマホが震えてメッセージの通知を知らされる。

「…あ!!お前はまた、俺というものがありながら可愛い彼女とのメッセージにうつつを抜かす!!」

「お前本当、いつになったら酔うの。」

「酔ったら穂高、帰っちゃうだろお!」

「帰りたいんだよ俺は。」


溜息を零しながら、画面を見ると、送り主は花緒では無く、今一緒にいる筈の芦野だった。

《アーリー、花緒ちゃん大変。》

「…は?」

そう一文だけ送られてきたメッセージを読み終えた瞬間、言葉が溢れていた。

< 225 / 231 >

この作品をシェア

pagetop