sugar spot
冷静沈着、その姿勢は崩さないままに再び掴まれた腕。思わず顔を上げたって男の表情に劇的な変化は見えないのに、苛立ちだけはしっかり確認できた。
「……俺が"足引っ張んな"って言ってんのは、」
「お〜〜〜〜い!!!1年生コンビ〜〜!?」
男が薄い唇を開いて紡ぎ出した言葉へ上乗せというか、蹴散らす勢いの大きな声が届いて、2人して従順に身体を向ける。
そこには古淵さんが、お店の入り口からひょっこり顔を出して、瞳をウルウルさせていた。
「主役2人とも急に消えるって、
幹事にとって1番のホラー!!!!」
「古淵、声がでかいよ。」
隣の枡川さんに宥められても古淵さんは、今にもぴえんという効果音が聞こえてきそうな表情のままだった。
「わかるけどな!?同期のこと好きなのは分かるし、ついつい語り合いたくなるよな!?
俺も大好きだし、愛は直接伝える派!!」
「古淵、話逸れてるよ。」
まるで譲歩のように、うんうん頷きながら彼が発した言葉に眉間の皺が濃くなった。
チラリと一瞥した男もこちらに負けず劣らずの険しい顔のまま、ぱっと掴んでいた私の手を離す。
「……すみません。すぐ戻ります。」
そして先輩の言葉に否定も肯定もせず、というかするのも無駄だと思っているくらいの平静さで颯爽とお店へ入っていく。
おいちょっと待てさっき何を言いかけたのと、聞くタイミングは完全に失った。
「梨木さん、有里君と仲良いんだね。」
フロアに戻る途中で、こっそりと枡川さんに耳打ちをされた。
「……え!?!?」
「え!?」
大きな声で反応してしまい、彼女もそれに呼応して驚嘆が上がる。
どこでそんな見解を得たのだろう。
常にピリピリと荒れ果てた砂漠のような雰囲気しか創り出している自信が無かったのに。
「え、だってそのお水も有里君が店員さんに頼んでくれたんでしょう?」
「………気まぐれですよ。」
先程店員さんが持ってきてくれたグラスを持つ手に力がこもる。そうかなあ、と困ったように笑う枡川さんには、うまく笑い返せない。
配属された時からそうだった。
あの男は、私のこと心底面倒だって思ってる。
お水も、自分が同期として足を引っ張られたくないからだって、分かってる。
こっちだってあんたみたいな奴ムカつくって思ってるし、
"____この酔っ払い馬鹿、
一応今日の主賓なので返してもらえますか。"
気まぐれに、助けたりしないでよ。