sugar spot
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「………」
「………」
「………」
「………」
"ランチくらいなんだ、平然とした顔で行ってやる。
優雅に微笑み送るくらいの余裕見せてやる。"
あんな風に自分の中で豪語して、迎えた今日。
昨日の私の決意は、やっぱり天敵を前にすると砂のようにサラサラと綺麗さっぱり崩れ去った。
「………いやいや沈黙つらすぎっっ!?
い、息が詰まるかと思った!!!!」
「古淵、うるさいよ。
あとそういうことは、普通あんまり口に出さないよ。」
古淵さんがチョイスした、やけにお洒落で女子人気の高そうなイタリアンレストランの4人テーブルに座る男女におとずれた沈黙は、ざっと3分間ほど。
それを破って急に大きな声を上げた古淵さんは、胸に手を当ててゼーゼーと大きく呼吸している。
何故か、息を止めていたらしい。
もしかしなくても、変な人なのかもしれない。
隣で溜息を漏らすちひろさんに申し訳ないと思いながらも、正面へ顔を戻すと自ずと交わる視線。
形のいい双眸は、私とかち合ったそれに気づいた瞬間すぐに不機嫌そうに細まる。能面のくせにその感情はちゃんと伝わってムカつく。
なんか、右目涙袋のほくろにまで腹が立ってきた。
「…何だよ。」
「は?何もないですが?」
「お前その態度、流石に改めれば?」
「あんたもその能面、なんとかしたら?」
反射的に言い返したら、のっぺらぼうは水のグラスを手に取って、そのまま私の言葉をスルーした。
うざすぎて死んでしまいそう。
「なんでこの子達、こんなすぐサツボツとするの!?!?」
最近の子怖い!!と騒ぐ古淵さんは、ちひろさんに
「"殺伐"ね、私はこれで社会人4年目の古淵の方が怖い」と宥められていた。
大体、ビルの1階で4人集合した時から、もう幸先の不安しか抱えていなかった。
まずちひろさんとエレベーターを降りてホールに辿り着いた時点で
『コーヒー買ってから行く。
馬鹿と一緒に乗ったら、馬鹿が移りそう。』
「…え、梨木ちゃん顔怖いけど。」
「…なんか"思い出しムカつき"してきました。」
「何それ初めて聞いたけど!?」
私もこんな状態はあの男以外にはなりません、とは言わず堪えながら待ち合わせ場所に向かって。
「枡川、梨木っち!お疲れ様ー!」
「お疲れ様、ごめんお待たせ。」
先に辿り着いていたらしい古淵さんは、ぺかぺかの笑顔で迎えてくれた。
……のに。
「お疲れ様です。」
ちひろさんには、ふ、と顔をちゃんと柔らかくしてそう告げた男は私を見た瞬間、直ぐに真顔に戻した。
なんて感じ悪いんだこいつと思いながらも、
私はぐっと堪えて。
"余裕の笑み、送ってやる。"
そう決意を唱えて、
「"有里、お疲れ様"」
と最大限努力して、笑ってみた、のだ。
そしたら、何故か目を見開いた男が、その薄い唇を半開きにして、いつも能面なのに一瞬で"驚き"の表情になったと、流石に私にも伝わって。
「………え。」
予想していなかった反応に、そう素直に声が漏れたら、それを契機にして、目の前の男がハッと意識を戻したような顔になる。
「……何企んでんの。」
「は?」
「普通に、不気味。」
そういつもの能面で言い放ってくれやがったから、もう私には、こいつに振りまく愛想を全て使い果たした。元々そんなものゼロに等しかったけど、もはやマイナスだ。