sugar spot
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「なんか梨木ちゃん、今日帰ってきてからご機嫌だね?」
淹れたてほやほやのコーヒー片手に隣のデスクへ戻ってきたちひろさんに、声をかけられて漸く自分の顔がだらしなく緩んでしまっているのに気づいた。
ハッとして顔を引き締めつつ「すいません」と謝ったら「え、どうして謝るの」と笑われた。
ちひろさんは、美人でクールな顔立ちなのにそれを屈託なく笑顔に変えるから、いつもそのギャップに女の私もドギマギさせられる。瀬尾さんはさぞ大変だろうなと勝手に思っている。
「神に、お会いできたのと、」
「分かる。今日も無事に神だった。」
午前中にご挨拶に伺った香月さんは、本当に後光が差してるのかと錯覚するほど良い方だった。
素敵な言葉もいただけたのと、あともう一つ。
「昼休み居ないなあと思ってたけど、それ買いに行ってたの?」
私が持っていた明るい黄色の袋に気づいたちひろさんにそう問いかけられる。
「そうなんです。会社近くにCDショップがあることの素晴らしさ感じてます。」
「なになに、アルバム?」
「はい、私がずっと昔から大好きなバンドのものなんですけど、初回限定盤と通常盤どっちも買いました。」
「ガチだね。」
「ガチです。」
ずっと発売日前日の今日、フラゲするのを楽しみにしていた。昼休みを返上して無事にどちらも購入して、特典もゲット出来て心が満たされまくっている。
袋から出して見つめつつやはり笑顔を漏らすと、隣のちひろさんも笑っていた。
「良いね。どんな仕事するのもやっぱりご褒美無いとね。」
「はい。ちひろさんのご褒美はなんですか?」
「んー、仕事終わりに居酒屋行くことかな。」
「ほお…」
「あ、おっさんだと思ってドン引きやめて。」
してないですよ、と慌てて伝えたらちひろさんは再び私が持っていたCDを見つめて、
「そのバンド、もう活動長いよね。」
としみじみ伝えてきた。
「はい。みんな小学校の時からの幼馴染で東京の下町出身なんです。
だから私、絶対就職して東京来たら、メンバー達のゆかりの地を色々巡りたいと思ってて。」
「聖地巡礼、良いね。もうやったの?」
「…えっと、」
“は?田舎者がどうやって1人で
こんなマイナーな場所まわんだよ。"
まだなんです、そう告げようとした瞬間、腹の立つ声で鮮明に再生されてしまった言葉に、声が止まった。
「………、」
「梨木ちゃん?」
「……いえ、ちょっと"思い出しムカつき"してしまいました。」
「また!?」
素っ頓狂なちひろさんの声を聞いて「すいません精神の修行します。」と伝えてCDをバッグへ仕舞おうとしたら
「__あ、いたいた。梨木さん。」
落ち着いたトーンで横から名前を呼ばれた。
従順に見向くと今日も営業部の人間に比べたら幾分ラフな服装に身を包んだ南雲さんが笑顔で立っていた。