sugar spot
◻︎
「これはまた、ド派手に間違えたわね。」
「亜子、待ってた〜!」
デスクに積まれたカタログの山を茫然と見つめていると艶やかな声が聞こえ、ちひろさんの同期で総務部の島谷 亜子さんが立っていた。
ちひろさんと亜子さんはとても仲が良くて、私も最近たまに一緒にランチに連れて行ってもらったりしている。
「花緒。とりあえず元気出せ。」
「…亜子さん…」
ふと笑ってそう言う亜子さんは、大量の茶封筒と送付状の束を抱えていた。
『本当は、各エンドユーザーさんに届ける予定だったカタログが、まとめて販売店さんの所に行っちゃったということは、まずうちのオフィスでその500冊のカタログを引き受ける必要があります。
もう電話して、このオフィスに送り返してもらうよう手配したからね。』
『……はい。ありがとうございます。』
ここからが地獄だと語ったちひろさんが、やはり眉を下げて続けた言葉は、
『…そして、大変辛いですが、その500冊のカタログの梱包、送付状の記入などなどを自分達で全てやらなければなりません。』
____確かに、地獄だった。
「とりあえず、送るのに必要な備品は用意するから任せなさいよ。」
「…亜子さん、ありがとうございます。」
無事にこのオフィスに送り返されてきたカタログ500冊の発送準備には、当然、大量の備品が必要になる。
ちひろさんが直ぐに総務部の亜子さんと連携してくれたらしい。
「梨木ちゃん、ごめんね。私今日、今から現場の立ち会いがあって定時に多分、オフィス戻って来れないんだ。」
「気にしないでください…!!本当にご迷惑おかけしてすみませんでした。」
「残業するつもりでしょ?私、現場終わったら戻ってくるから、」
「いえ、本当に大丈夫です…!!!
なんとか、します。」
ちひろさんの言葉を遮った自分の声が、情けなく震えた。
ミスをしたことも、勿論凹む。
だけど何よりいろんな人を巻き込んだことが、不甲斐なくて堪らない。
もうこれだけかけといて何をって思われても、これ以上、迷惑をかけたくない。
「でも一人で全部やるの流石に大変だよ?」
「…作業自体は、梱包して、送付状書いて、の繰り返しでそんなに難しいことは何も無いので、」
ゔーーーん、と困り果ててなかなかイエスを出さないちひろさんを、側で聞いていた亜子さんが呼ぶ。
「ちひろは兎に角、現場行きなさいよ。
助っ人呼んだから。」
「助っ人…?」
「今日はちょうど外回り無いって言ってたアホと、その後輩。」
「お〜〜い!!」
それは、誰ですか。
そう聞く前に大きな声が届いて、
「あー来た来た。うるさ。」
と亜子さんが冷淡に告げる。
「梨木っちドンマイ!!
でもこんなミス、俺からしたらアルアル過ぎて
言葉に出来ない!!」
「じゃあ黙ってなさいよ。」
ぺかぺかの笑顔でそう笑う古淵さんと、それに突っ込む亜子さんと、「わー助かるありがとう」と笑うちひろさんと。
微笑ましい空間に、私も早く、お礼を言わなきゃいけないのに。
視界に入ってしまった男のせいで上手く言葉が出ない。
「有里君も、ありがとう。」
「…いえ。お疲れ様です。」
ネクタイを胸ポケットに突っ込んだ能面が、そう言いながらシャツの袖を捲っている。
「やっぱり同期いた方が心強いでしょ?」
「………」
ニコリと美しく微笑んで小首を傾げる亜子さんに、必死に瞳だけで私の今の感情を訴えたけど、華麗に無視をされた。
私がこの男とどれだけ険悪か、この人にもランチだとかあらゆるところで伝えている。
「…おい、突っ立ってないでやること教えろ。」
平然としたトーンで、溜息混じりに私に告げた男はやはり能面のままだった。
______さ、最悪だ。