sugar spot
「おいそこのポンコツ同期。」
「え、亜子ちん怖い。」
「あんた、宅配の送り状もっと気合い入れて書きなさいよ。
筆圧くそ弱いミミズみたいな字書きやがって、2枚目の控えの方にぜんっぜん転写できてないじゃない!!」
「ぴえん。」
……古淵さん、とても申し訳ない。
私のミスのせいで、亜子教官から受けなくて良い攻撃まで受けている気がする。でもミミズみたいな字ってなんだろう。
現場へ向かったちひろさんを見送ってから数時間。
亜子さんも古淵さんも、カタログ発送の準備に専念してくれている。
私はというと、2人と同じテーブルでひたすらにカタログの梱包作業をしている。緩衝材(プチプチするやつ)にしっかりくるんで、ひたすら封筒にそれを詰めていく、という内容はとても単純なものだけど量が途方もない。
「……、」
そして振り返ると、私達が使っているテーブルより幾分小さいテーブルに向かって、私と同じ作業を黙々と続ける長身の男の背中があった。
気まずいの権化でしかない。
誰にも分からないように1つ溜息を漏らして再びテーブルに身体を戻すと、自分のノートに挟まっていた紙に目が留まった。
この間、南雲さんが持ってきてくれた展示会用パンフレットのゲラ刷りだ。日時を始め、今回のうちのテーマなど色々と情報が記載されている。
「………、」
「花緒、どうしたの?」
「あっ、すいません。亜子さん。
今、宛名シールの在庫って沢山ありますか?」
「この間発注したからあると思うけど。
でも今回は送り状使うから、封筒に宛名要らないでしょ?」
「……わかりました!
いえ、お聞きしたかっただけです!!!」
勢いよく返答すると亜子さんは「変なの。」と笑った。
◻︎
「割と短時間で、頑張ったんじゃない?」
「ほんっっっとうにありがとうございました。」
「良かったわね。」
「梨木っちお疲れ様〜!」
結局、定時から2時間弱オーバーして、あらかたの作業が完了した。
亜子さんと古淵さん、お2人に手伝っていただけたことは何より大きくて、深々とお辞儀をすると「お礼なんか良いわよ、スタバのフラペ5杯分くらいで。」と綺麗な笑顔で言われた。
そんなのいくらでも奢ります、と二つ返事をしたけどよく考えたらまあまあ高い。でも仕方ない。
「ここまで来たら、後片付けも一緒にやるけど?」
「いえ…!本当にもう大丈夫です!
ありがとうございました。」
「そう?じゃあ先にあがるわ。お疲れ様。」
「梨木っちお疲れ様!
島谷〜〜何食べて帰る!?」
「なに、あんた奢ってくれんの?」
「え、牛丼なら…?」
「チッ」
「舌打ちでかぁ!!」
スタスタ颯爽と歩く亜子さんに、軽快についていく古淵さんを見送って再び作業していたデスクを見る。
今日中にきちんと完了できて良かった。
そう安堵が心に広がると、何故だか急に視界が滲んだ。
速水さんからは「巻き込んでほんっとごめん」と謝罪のメール、ちひろさんからも心配のLINEが来ていた。
優しい人に、恵まれている。
でも私はこの優しい人達の手伝いをするどころか、配属されてからずっと、迷惑をかけてばかりだ。
「…や、ば。」
先輩お2人が居る前では、どんなに情けなくても私が泣いている場合じゃないと耐えていたものが急に解放を訴え始めた。
駄目だ、まだ私はもう一踏ん張り、やることがある。
さっき思いついたことだけど、そのくらいせめて役に立ちたい。
ぐい、と手で雑に瞳をこすって、よし、とワザと口にして気合を入れて。
備品のキャビネットへと向かおうと振り返った時だった。
「___おい馬鹿。」
「……っ、」
コーヒーメーカーの設置されているスペースにゆらりと身体の重心を少しだけ預けて立つ長身の男が、能面のままに私を呼ぶ。
まさかまだここに誰か居ると思わなかったから、驚きすぎて声も無く、身体を大袈裟にびくつかせてしまった。