sugar spot
「あ、あんた帰ったんじゃなかったの…」
作業を終えて、心配してくれていた速水さんやちひろさんに電話をするために席を外し、再び作業スペースに戻った時。
有里が使っていたテーブルには、綺麗に梱包が終わったカタログの山だけが残っていて、この男の姿はなかった。
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"有里君?先に帰ったわよ。"
"え?穂高ならカフェ……いたっ!?"
"なんか用事あったんじゃない?"
"亜子さん足踏んでるのだが!?"
"知ってる。"
"…そう、ですか。"
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亜子さん達にそう言われて、「いや私にも一言声かけてから帰れよ」「いや声かけるって何、そんなの別に要らないわ」と謎の1人ツッコミをしながら苛立ちを増幅させた後だったから、まさかまだ、残っていたとは思わなかった。
「腹減ったから、軽食買いに行ってただけ。」
「……え。」
「何だよ。」
「なんかまだ仕事残ってんの?」
「……はあ?お前が増やしたんだろうが。」
「…え…」
はあ、と息を漏らした能面は、そのまま私に長い足で簡単に近付いてくる。
「宛名シール使って、なんかやるんだろ。」
「……なんで…」
「急に島谷さんに在庫聞いたりして、普通に不自然。」
“なんか考えてるんだろうけど、そこまで手伝ったら流石に気を遣いそうだから。有里君フォローよろしく“
溜息混じりに亜子さんにもそう言われたと説明されて、驚きで言葉が出ない。
形の整った綺麗な瞳と、再びぶつかった。
そこに苛立ちを孕んでることくらい、分かる。
「………だから早く、「……帰っていい。」
「は?」
「1人で、やるから。」
この男がすごく面倒だと思ってることなんか
最初から分かっていた。
同期だからって巻き込まれて、こんな時間まで付き合わされて逆だったら私だって、同じ反応になったかもしれない。
全部、私が引き起こしてしまったことなんだから最後くらい1人で頑張れる。
男に告げた後、声はなるべくいつも通りを心がけたけど、視界が情けなく揺れた。
絶対それを悟られないように、テーブルと向き合いながら自分のノートパソコンを立ち上げる。
すると隣からまた盛大な溜息が聞こえて、トン、とパソコンの隣に紙袋を置かれた。