sugar spot
◽︎
そうして勿論、迷うことなくエントリーを出したこの会社の面接は、毎回ガチガチに緊張していたけど、なんとか最終面接にこぎつけた。
こちらは1人、向こうはきっと“お偉い方“だと分かるおじ様が2人。
圧迫面接では無いのに緊張が全く解けない私は、始まった面接で、何を喋ったかあまりもう思い出せない。
とにかく“無難“な答えを告げれば告げるほど、手応えが確実にこぼれ落ちていく。
「……梨木さんは、
4年間CDショップで働かれてるんですね。」
「あ、はい…!」
「何か理由があるんですか?」
「……えっと、個人経営のお店だったのですが、アーティストごとに販売コーナーを自分で作らせてもらえたり、店内BGMをアレンジして流したり、いつも楽しくて。」
そこでも大好きなバンドへの愛は強くて、気合を入れて凝った宣伝POPを作っていたことを思い出す。
店内のBGMを私的に使いすぎていた時期もある。
店長にもよく呆れられていた。
それは言えないな、と心で考えていると
「良いですね。誰かを応援できることも、自分が楽しいと思うものを見つけられることも、素敵です。」
「……」
柔らかく笑って伝えられた感想に、思わず顔をあげる。
そしたら自ずと、背筋も伸びた。
穏やかそうな笑顔の男性は、確か最初の自己紹介で営業部の仕事を取り纏める、執行役員の1人だと話していた気がする。
「こちらからの質問は以上ですが、何か梨木さんの方からありますか?質問でも、伝え忘れたことでもなんでも。」
「……あの、」
「はい。」
太腿の上で重ねた手に力が入る。
「…志望動機に、補足をしても良いでしょうか。」
「……どうぞ?」
__"なるべく素直な気持ちを話したいって思える時が、就活でもきっとあります。"
「さっき私は、御社への思いをお伝えさせていただきましたが、前提として、東京に来たかったんです。
大好きなバンドがいて、その聖地巡礼もできる、色んなイベントにも参加できる。
彼らの面影を日々探せる場所で、働いてみたいって、憧れていました。
そういう居心地の良さというか、トキメキがあれば、毎日ちょっとは仕事も頑張れるんじゃないかって、すごく単純な考えが私の根本にはありました。
…合同説明会で御社のブースでお話を伺う機会があって。
“居心地の良さで「働く」は決まる“
キャッチコピーに、勝手に、シンパシーのようなものを感じました。」
伝えたい、と思った時には、
その日1番するすると言葉は紡げた。
間違えたかもしれない、“無難“な動機で止めておいた方が良かったかも。
ぐるぐると自分の選択に対する葛藤を巡らせていると
じっと話を聞いていた男性がふと、息をこぼして緊張した空気を揺らした。
「……なんか、居たなあ。」
「え?」
「どうしても営業やりたい!って言ってる子がいて、その理由、深掘りしていったら憧れてるドラマのサラリーマンみたいに外ランチ巡りしたいんですって。
なんだそれってその時は思ったけど、今や一生懸命、活躍してくれてるみたいだから、志望動機なんか、本当は自分の中で違和感が無ければ、些細で良いのかもしれない。」
「……」
その人を、私は知っているとは、言えなかった。
ただ真っ直ぐ、男性を見つめていると
「…数年に1回、同じような子が現れるのかな。」
と、可笑しそうに笑った。