sugar spot



「水も頼んで、少量ずつ飲むから大丈夫です!!」

「意味わかんない、何がしたいの?」

「…お酒トレーニング。」

「なんのために?」


こてん、と首を傾げる奈憂は可愛らしい。
そしてこちらに純粋に投げかけられた質問は、
まあ分からなくはない。

「……目指す人に、出来る限り早く近づきたいの。」

「分かんないなあ。
花緒の良さは、他にもあるでしょ?」

「どこ?」

「馬鹿なとこ?」

「………真面目に聞いて後悔してる。」

「うそうそ、ごめんね?」


どれが嘘なの、と目を細めたら、
奈憂は困ったように破顔した。

「いつも、ばか正直なところ。
それは、花緒の良いところじゃないの?」


「……"私"じゃ、ダメなの。」

私で居ることは、きっと求められてない。


力無く微笑んだら、奈憂はメニューを抱えたまま何かを再び紡ごうとしていたけど、それに被せるように「お酒、無理はしないから大丈夫」と告げた。





___定期的に行われている同期会。

金曜の今日、召集が久しぶりにかかって、
私と奈憂も参加している。

都内と隣県のオフィスに居る同期達が一堂に会するので、それなりに大人数になり、チェーン店の居酒屋の座敷で、ぞろぞろと集まる度に空間の騒がしさも増していった。


「大体揃ったし、2時間制だからまだ来てない奴いるけど始めま〜〜す!!」

今日の幹事がそう告げて、各々が届いたファーストドリンクを手にする。


「え、待ってアーリー居ない!!!」

「……」

隣でビールを持った奈憂が、切迫した声でそう報告をしてきた。
確かに、部屋のどこを見てもあの能面の姿は無い。


「…不参加なんじゃない。」

「来るかどうかちゃんと本人に確認したもん。
推しの出欠確認は必須なの。」

「……ふうん。」

同じオフィスに居ても、顔を合わせないよう努めることは、全然、実現できる。

でもそういえば今日は、外回りだったのか、あの長身の腹の立つ背中も目撃はしていない気がする。


「…じゃあ、ドタキャンなんじゃないの。」

「も〜〜だからなんで一緒に来なかったの!?
アーリーをちゃんと同期会まで連れてくるのが花緒の役目でしょ!?」

「え?初めて聞いたんだが?」

こんな理不尽な怒られ方があるのだろうか。



「この2人、楽しい時と苛々する時、混在するわ〜めんどくさいよ〜〜」と、またよくわからないことを奈憂が言い終えた時。



「なんか有里、トラブルあったみたいで残業してんだって。一次会間に合わんかも。」

と、幹事の1人がスマホ片手にそう報告してきた。
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