sugar spot
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「え、梨木ってお酒飲めないの?」
「意外〜〜がんがん飲めそう。」
「それな。」
「飲みで、上司とか潰せそう。」
「あーわかる。」
「……。」
この人達、好き勝手言ってくれている。
オレンジジュースの入れられた紙コップを持って不満そうな顔をしても、もう既にお酒を楽しんでいる同期達は私の不穏な空気を察してくれない。
酔っ払いたちめ。
無事に、宿泊研修が終わった。
確かな達成感に包まれながらグループワークも完了して、夕食後、施設の多目的ルームを借りて打ち上げが開かれていた。
吉澤さん達、人事チームの皆さんも参加していて、なんならスパルタな彼女はめちゃくちゃにお酒を飲んでいるけど全く顔色が変わらない。
私はというと、お酒との相性が全く良くないので大人しく最初からジュースで我慢している。
明日はもう、早朝に少し講義を受けて東京へ戻るだけだ。
来週1週間が終われば、その後には配属も通知されて同期みんなでこんな長い時間過ごすことも無くなる。
今日は、研修の最後に本配属の希望を出した。
"そうですね、私の一番の志望動機です。
くだらないでしょう。
でも、私にはとても、大事なんです。"
私は勿論、あの彼女がいる職種を迷わずに書いた。
単純だと笑われても、それ以外思いつかない。
缶のジュースを握りしめて体育座りをしていると、そこそこ酔っ払った隣の奈憂がだらん、と体重を預けてきた。
「…なに、重いよ。」
「ちょっとセンチメンタルになってんのー」
「はあ?」
「だってさあ。私と花緒、絶対、配属先違うじゃん。
私は家具の流通系の仕事希望してるし、
花緒は営業志望でしょ?
まあ、花緒が奇跡的に営業になれたらの話だけど。」
「気にしてるところを
遠慮なく突っ込んでこないで?」
オフィス家具を扱える営業部なんて、男女問わず人気の高い部署だ。
それは勿論、痛いほどわかっている。
「でも花緒が営業になれたら、面白いね。」
「…面白いとは。」
「花緒ちゃんと、有里のコンビ?」
「、」
ふわふわしたトーンのまま語られていたから、まるっきり油断していた。
突然出てきた男の名前に体がびく、と揺れたのは、絶対に私の肩に寄りかかってきているこの女は気付いてる。
「なんで、有里なの。」
「志望してるって言ってたもん。
それにあの人はもう決定でしょ、
優秀だしイケメンだし。」
「最後、関係あるの。」
「ある。」
「……」
推しへの愛がすごい奈憂は置いておいて、ちら、と視線を移すと同期男子の輪の中の男が、簡単に視界に映る。
ちょっと表情が柔らかい気がするのは、
同期への信頼によるのだろうか。
…私はほとんどそんな顔向けられたこと無いと思うと、また腹が立ってきた。
それでも、何故だかその景色を見つめてしまっていると
「まあだからなんていうかさ。
離れても遊んでよ、たまには。」
歯切れの悪い言葉でこちらに背を向けたまま、女が呟いた言葉に思わず笑った。
「…奈憂はお酒入ると素直になるタイプなんだ。」
照れ隠しなのか、重ねるように告げられた「あとは推しの情報を、随時提供して欲しい」という要望は丁重にお断りした。