sugar spot
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「あれ、梨木。何してんのこんなところで。」
「え!!いや、物思いにふけろうかなと…?」
「へえ、似合わな。」
「……」
とても、失礼じゃないだろうか。
ずっと研修をしてきた会議室の近くの自販機スペースのソファに腰掛けてぼうっとしていたら、通りすがりのスパルタ教師に見つかってしまった。
何故だか修学旅行中の夜遊びが見つかった時のような後ろめたさがある。
「梨木。配属希望見たわよ。」
吉澤さんは私にそう言いながら隣に腰掛けてきた。
散々盛り上がっていた飲み会もお開きになって、各々部屋へと戻ってしまったから、施設内には夜の静寂が漸く訪れている。
「な、なんですか。笑いますか?」
「なんでよ。」
「だって、研修中も吉澤さんに怒られてばっかりですし。
営業なんて人気の職種、私には無理って分かってますけど、諦められないんです。」
本心を口にしたら、
吉澤さんは長い足を組んで器用に頬杖をつく。
「まあ。ほんとあんたはこの1ヶ月間、
面白いこと沢山してくれたわ。」
「……」
「配属希望はね、みんなに聞くものだしそれが思い通りにならないことも多い。」
「はい、分かってます。」
「あんた、そんなにオフィス家具の営業したいの?」
これは私も誤魔化せないと、吉澤さんの方を向いて深く頷いた。
「…したいです。やってみたいです。
後は、その、会いたい人が居るんです。」
「え!?」
「え!?」
急に大きな声を出すから、何故だか応戦してしまった。2人して目を見開いたままに視線を重ねる。
「きゅ、急に大声やめてください。」
「いやそっちこそ、急にLOVEな話やめてくれる?
先に言っておきなさいよ、もうちょっと心の準備させてよ。」
びっくりした、と胸に手を当てている吉澤さんの言葉を反芻したら、もっと焦りが身体から飛び出した。
「ち、ちがいますよ…!?」
「何よ梨木、そんな人がいたの。隅に置けないわね。」
「だからそうじゃなくて!!」
「何が違うの、そんな赤い顔して。
好きじゃ無いわけ。」
「正直めちゃくちゃ好きですが、
それだけじゃなくて憧れてる人です!!」
「憧れ?」
「ずっと私を支えてくれてた、神様みたいな人で…
絶対、会いたいし、仕事も一緒にしたいなって思って、」
自分の発言は、セーフだろうか。
人事的にストーカー規制されてしまったらどうしようと不安に思えば言葉が尻すぼんでいく。
それなのに、吉澤さんから
「神様?それ私じゃなくて?」
「……」
と、拍子抜けする自意識過剰な問いかけを受けて、
なんとも言えない表情のままに絶句してしまった。
「なにその顔。」
「いだだだだ、」
私の反応が気に入らなかったのか、まあまあな強さで頬をつねられ、コンプライアンスを高らかに主張したくなった。
すると、吉澤さんの視線が私の後ろへと移ったのが分かる。
「___あれ、有里。
なに、あんたいつから居たの。」
「、」
彼女が発した名前に恐る恐る振り返ると、
当然、予想した人物が立っていた。
ロンTにスウェットのズボンという軽装でも長身がはっきり分かる。
「お疲れ様です。
飲み物を買いに来ただけです。」
私に視線を合わせず自販機の方へ向かう男の声は、いつも通り冷静で、だけどどこかいつもより冷んやりと耳に届いた気がした。