sugar spot
「…あ、そ。」
まるでなんてことないように返事をするのが
上手くなったのは、この時からだと思う。
「よく考えたら、私もそんなの、困るし。」
だって、この男は”ただの”、同じバンドが
好きなだけの、いけすかない同期だ。
じゃあ、と一方的に切り上げてその場を立ち去る私は、自室の前まで必死に足を動かした。
暗闇で、スリッパがフローリングを叩く音がよく響いて、その無機質な音が何故だか酷く「寂しい」を助長する。
「……、」
急に身体を沢山動かしたら、
こんなに心臓が痛くなるなんて、知らなかった。
「あ、花緒どこ行ってた……花緒?」
宿泊研修中、ずっと同部屋だった奈憂は帰ってきた私を出迎えて、その異変に気が付く。
もうすっかり飲み会での酔いは覚めてしまったらしい。
「花緒。」
「なに。」
「……どうしたの。なんで、」
___泣いてるの。
他人に指摘されて初めて気がつく涙は、
一体どういうものだろう。
焦ったような顔の奈憂は、私の肩にそっと触れる。
「…私も、みんなと離れるの、
寂しくなったのかな。」
「ええ〜時間差すご。飲み会の時に泣いてよ。」
「みんなの前で泣くとか、きもい。」
「なにそれ。」
変なの、と笑った女は、
こういう時こそ何も聞いてこない。
珍しくぎゅうと抱き締めてきた
その温もりに、また泣けた。
「…土曜の写真展、
1人で行くことになってしまった、」
ぽつりと呟いたら「私の出番じゃん」とまた揶揄うように告げた奈憂は当日、本当に付き合ってくれた。
「まさか有里がバーベキューに急遽参加するとは〜〜推しより友情を選ぶという、己の優しさ。」
と、同期のグループLINEの写真を見つつ悔しそうに呟いていたから、罪悪感はとても募ったけど。
それと共に
"嗚呼、初日の写真展、
こいつは本当に行かなかったんだ。
それくらい、私と会うのも嫌だったんだ。"
と知って、
やっぱり心の奥に痛みが走った気がした。