sugar spot
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「……だっっっっっさ。」
「亜子ちゃん、流石に小さい「つ」多くない??」
「あんたのセンスなんなの?
てか去年もクソダサかったのに、何で今年もこいつにデザイン任せようってなるのか分からない。
会社の通報窓口に連絡しようかな。」
「…俺、とうとう
お偉いさんに呼び出されちゃう感じ?」
いつものやり取りは、もはや半年を過ぎると恒例のものとして、私もさほどハラハラしなくなってきた。
今日、いつもと違うのは、
それが繰り広げられている"場所"だけだ。
「花緒、あんた似合ってるじゃん。」
「今の流れでその言葉、全然嬉しく無いです。」
「分かる。まず蛍光緑のTシャツの集団ってだけでなんか怖いのに、その胸元の要らないフレーズよ。」
亜子さんに指さされて、自分の胸元を見ると
『オフィスに集え!!』
と、荒々しいフォントで書かれていた。
___この、夏真っ盛りの今日。
私達は「新しい働き方」をテーマにした
大規模な展示会に参加している。
期間は2日間で、今日はその初日だ。
開催時刻まではまだもう少し余裕があるけど、出展している企業は各ブース周りでみんな慌ただしく動いていて、自ずとこの広い会場全体も、熱気に既に包まれている。
私達は毎年お揃いのTシャツを着るのが恒例だそうなのだけど、古淵さんがデザイナーを務めたらしいそれは、絶妙にダサい。
去年は、Tシャツの色は蛍光イエローで、フレーズは『オフィスを劇的に変えるべし!!』だったらしい。
微妙な違いに、理解はできないけどこだわりを感じる。とりあえず、どちらにせよダサい。
「ちひろも応援来るんでしょ?」
総務部の亜子さんは、この展示会で必要不可欠な企業パンフレットを含めた資料等を、全て管理してくれている。
でもその受け渡しが終わったら、帰ってしまうらしい。このTシャツを着たく無いからでは、とちょっと思う。
「はい。多分、企画部でお忙しいのに、
ちょっと顔を出しに来てくださるみたいです。」
ちひろさんは、夏本番を迎える前に、
本当に営業部から企画部へ異動してしまった。
弱音を吐く以前に、大量の仕事に着いていくのが精一杯の日々に、普段は身を置いているけど。
こういう営業部主催のイベントに彼女は主で参加する側では無いのだと実感すると、寂しさも募る。
「…有里君は?」
「知らないです。」
「…え、なに。まだ揉めてるの。」
「揉めてるというか、ずっとこんなものなので。」
ブースの椅子や、配布資料を整理しながら、なるべく平静を保って告げると亜子さんは困ったように溜息を漏らす。
「あんたら、ちひろ達とは別の意味で
拗れてるし面倒なのよねえ。」
「…何ですか?」
「花緒。この展示会、ジンクスあるのよ。」
「……え?」
にっこりと微笑む亜子さんは、やはりどんなに顔を合わせる頻度が上がっても、ドキドキさせる麗しさを持っている。
「なんか、思い切ってハレンチになると
気になる相手と急接近できるんだって。」
「…は??」
ぽんぽんと、肩を楽しそうに叩いた彼女はそのままとても満足そうに去っていく。
告げられた言葉を、何一つ理解できなかった。
「は、ハレンチ…?」
あまり自分では使わない単語を繰り返して。
しかも、"気になる相手"って、何。
そんなの居ない。
このまま考え続けたら、私、なんか変な奴のことを思い出しそうな気がすると、作業に集中しようと深呼吸をする。
それと同時に、ブースの奥で同じように準備をしているであろう能面を「有里〜!」と呼ぶ先輩の声が何故だかひどく、鮮明に聞こえた。