sugar spot
「…それを有里君に言われて、どう思ったの?」
「……、」
嗚呼、やっぱり全部バレている。
私は一回もあの能面の名前なんか、出してないのに。
「……むかつきました。」
「うん。」
「じゃあ私のことも助けたりすんなって、思って、」
「うん。ばちばちしてんなあ。」
柔らかな笑いを含んだ声を聞いていたら、
もっと視界が滲んだ。
例え瞳から何かが溢れても、
チラシを濡らすわけにはいかないと
ぎゅっとそれらを胸に抱きしめた。
「……でも、ホントは、私たち“同期“なんだから、」
__あの男に、助けられてばっかりの自分は、嫌だ。
絞り出して弱く呟いた声を聞きこぼさない南雲さんは、受け止めて「そっか」とやはり微笑む。
「じゃあやっぱり今から、言わないと。」
「……今から、?」
今からは私達、ひたすらにビラ配りに徹する筈では。
不思議に思って南雲さんに聞き返すと、
彼の視線は私のもう少し奥に向けられていた。
「___有里君、息切れてるの珍しいね。」
「……、お疲れ様です。」
そして投げた言葉の中に含まれた名前に驚いて自然と振り返る。
「…、え、」
私達と同じ、蛍光緑のTシャツを着ている男は
同じようにダサい。
だけど走ったのか、肩が少し上下に揺れていて、いつもの能面とはその表情に歪みがあって、少し違う。
「……南雲さん、古淵さんがデザインのことで聞きたいことがあると。」
「…今?」
「…これから急遽来訪が決まったクライアントに話したい内容だそうです。古淵さんは先にブースに戻られました。」
「…"わざわざ"、それで呼びに来てくれたの?」
「…急ぎのことですので。
なるべく早く、と思ってお伝えしに来ただけです。」
南雲さんの声は変わらないけど、それに応える男の声はやけに淡々と聞こえる。
この男、他の人にはもうちょっと愛想良かったイメージだったけど、それさえも何処かへ落としてきてしまったのか。
「…そんな警戒しなくても俺、
有里君の敵じゃないんだけどな。
とりあえず了解。ありがとう。」
状況を把握した南雲さんは、自身で持っていたチラシを私にまた戻してきて、目が合ったらふと微笑む。
「梨木さん、後ほど報告よろしく。」
「、え、」
含みたっぷりの言葉をこっそり残して去っていく彼の背中を見つめながら、突然の流れをうまく掴めていなくても「待ってください!!」と呼び止めたい衝動にかられた。
だって南雲さんが居なくなったら。
当たり前だけど、当然。
「何。」
___この男と、2人きりになる。
ちらりと視線を移したら、それを察した男に
通常運転のような、いけすかない返事を食らった。