sugar spot
「……な、にそれ。」
声の渇きに気付くけど、唾を飲み込むのも忘れて掠れた言葉を漏らした。
相変わらず何も言わず、こちらを見据える男の意図が読めなくて、困惑もきっと伝わっている。
「…梨木。」
なんか、久しぶりに名前を呼ばれたかもしれない。
それだけでまたじわじわと熱を帯びる瞳は、
どうしようも無い。
「私、泣いてない。」
「…泣きそうだった、は合ってるだろ。」
「…、」
なんなの。
仮に泣いてたとしても、どうしてあんたが来るの。
なんで、この男は。
すぐに私のこと突き放してくる癖に。
自分は、好き勝手なことばっかりするの。
この男がそばに居ると、
私は、とにかく心も身体も掻き乱される。
もう、感情を乱されたりしたくない。
そう誓った。
____だけど。
「…カタログのこと、褒められた。」
「は?」
「あの宣伝POP、助かったって、
先輩が言ってくれた。」
「……」
「だから、その、
……手伝ってくれて、ありがと。」
先輩に言われたから渋々付き合ったんだとか、
私のためじゃ無いとか、
もう、知らない。
『“私はそう思ったんだ“って、
たまには押し付けてやればいいよ。』
_____"私は"それでも、本当は嬉しかったんだから。
ようやく、あの残業から数ヶ月ぶりに、
私は自分の気持ちを告げた。
その安堵かなんなのか、正体の分からない迫り上がった気持ちが襲ってきて、また視界がぼやけそうになる。
「だ、だから。
あんたも言ってた"貸し2つ分"は、
ちゃんと返す。」
『お前、失敗ばっかりな上に、もう貸し2つあるから。俺になんかあったら身を粉にして働けよ。』
俯いたまま、絶対に男の方は見られないけど、
前に言われたことを思い出しつつ、少し顔を出した勇気を頼りに、もう少し言葉を続ける。
「…私は嫌だから、」
「…何が。」
「あんたが、私に頼るの絶対嫌だって、
私のこと嫌いだって、思ってても。
私だって、このまま
助けられてばっかりなの、嫌だから。」
最後に向かうほど、言葉が揺れた。
今度瞬きをしたらなんかもう、目から溢れそうなものを堪えるのが、いよいよ際どい気がする。