僕等はきっと、満たされない。
あの人の実家は
京都で有名な老舗旅館だった
それを知ったのも
あの人と別れてから
雑誌を見て知った
たまに地元の話や子供の頃の話をする時に
育ちのいい人なんだなと思うことが多々あった
私とはなんとなく育った環境が違う人
そう感じることがあった
あの人も私の話を
物珍しそうに聞いていることがあった
あの人とは
大学で出会って
大学2年の時から6年近く付き合った
初めてできた彼氏で
私は彼しか知らなかった
5年も付き合うと
空気みたいな存在で
きっとこのままこの人と
生涯共に生きて行くんだと思ってた
空気みたいな存在ではあるけど
冷めてたわけではなくて
「好きだよ」
「愛してる」
あの人はちゃんと愛情表現してくれる人だった
「キミたちすごいね
5年経っても飽きない秘訣って何?」
「5年も付き合ってるんだから
そろそろ結婚してもいんじゃない?」
大学を卒業した頃から
よく友達に言われてた
でも付き合ってから一度も
彼の口から結婚とか
将来のことについての話はなかった
25歳になって
結婚する友達が何人か出てきた
就職先の先輩と
1年付き合って結婚する友達もいた
大学を卒業して地元に帰って
地元の同級生と再会して
赤ちゃんができて結婚する友達もいた
5年付き合ってる私たちには
相変わらず結婚の話はなくて
最近あの人の様子がおかしいな…
そう思い始めてから数ヶ月後
あの人の口から出たのは
結婚話じゃなくて
別れ話だった
私のいないところに行って電話したり
話してても上の空だったり
兆候があった
「晴、ごめん…
好きな人ができた
別れてほしい」
嘘…
大好きだった5年間を
出会ってからの7年を
そんな簡単な言葉で
終わらせようとする人だったの?
納得できるわけがなかった
あの人の好きな人の存在は
私の周りでは思い浮かばなくて
でも問い詰めることもしなかった
私以外に好きな人なんて…
信じられなかったから
あの人は嘘を付いているのかもしれない
すんなりと頷くことができない私と
結局別れられなくて
あの人は私と仕方なく交際を続けた
今までみたいに
キスもしたし
ベッドで抱き合うこともした
きっとまた
このままあの人と元に戻ることができると
信じてた
なのに
キスの温度も
求めてくれる強さも
抱きしめてくれる優しさも
前とはどんどん違ってきてるのが
私にはわかった
「好きだよ」
「愛してる」
言ってくれることもなくなった
一度別れを告げられてから数ヶ月
「ごめん
もぉ、好きじゃない
別れてほしい」
最後は名前も呼んでくれなかった
彼の気持ちは
戻ってくれるどころか
好きじゃないに変わってた
「いつから好きじゃなかったの?
好きじゃないのに抱いてくれてたの?
どぉしたらまた好きになってくれる?
ねぇ…
ねぇ…
ねぇ…
どーして…
…
ホントに、好きじゃなくなったの?
私のこと、嫌いになった?」
感情を抑えることができない
私の質問にはひとつも答えずに
「好きになって、ごめん
…
大好きだった」
あの人は無表情でそう言った
私の中の最後の記憶
あの人は
表情も
色も
温もりもなかった
それ以外の記憶は
私の中で
鮮やかな大恋愛で残ってる